小説

- どちらでもいい -

破壊された石壁、半壊の建物、辺りは血と腑が散乱しており、土の色など見えやしない。

先程降った雨では、この惨状を洗い流す事など出来なかったようだ。ポタポタと亜麻色の髪から水滴が落ちる。顎からは赤い滴が落ちていく。
薙ぎ倒された大木の陰で、亜麻色の髪の少年は、腕を押さえながらじっと前を見据えていた。
荒い息を整えながら、空を見上げる。どんよりとした黒い雲の合間から、一筋の光が差し込んでいた。その光を掴むように、血に濡れた手を前に掲げる。

「沖田」

肩を震わして、咄嗟に手を引いた。ズキリと傷が痛み、顔をしかめる。

「大丈夫か?」

藤堂が心配そうに顔を覗き込んできた。彼の姿も散々なもので、体半分赤黒く、頭を撫でてくる手の指は、本来の数ではなかった。

「…何で人の心配してるんでィ」
「さぁ?」

力無く笑い、隣に座る。

「近藤さんどこかな…」
「…」
「源さんの事、何て言おう…」

自分を庇って死んでいった武州からの仲間。時には厳しく、時には暖かく、皆の父親のような存在でだった。
最期の彼は微笑んでいた。微笑んでいるだけであった。何を言い遺す事もなく、無言で亡き妻のところへ逝った。

「晴れるかな」
「…」
「あの光から神様が降り来て、こう言うんでィ‘もう戦争は終わりにしましょう’って」
「神なんかいるかね」
「いないか」
「いや、いるかも」
「どっちなんでィ」


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近藤さんはすでに死んでいて、藤堂も実は毒にやられており(だから体半分赤黒い)、死ぬ前に沖田の顔を見に来た、という鬱な小話を妄想してみた。

そうしたらよくわからない話になった。

- ナノ -