小説

- 繰り上がり -

「駄目だねィ。すぐ顔に出る」
「…」
「そんなんでこれからやってけんのかィ?俺の後釜は」
「うるさい!」

そう叫ぶと彼は立ち上がり、部屋を出て行った。
心配してやってんのに。開けっ放しの襖を見つめながら溜め息を吐く。
すると、喉の奥から例のモノがこみ上げてきた。やべ、っと咄嗟にそれを受け取るモノに手を伸ばすが間に合わず、ゴボリと吐いた。喉に詰まらぬよう、咳をしながら上体を起こす。枕が赤く染まっていった。

あのチビのせいだ――タオルを取るのも億劫だ。掛け布団で口の周りを拭き、壁にもたれかかる。今でも未練たらしく立て掛けてある我が佩刀が視界に入った。
今、自分の腕はどれぐらいになってしまったのだろう。まさか、あのオカマには負けないだろう。あ、今度一戦申し込んでやろうか。アイツとは、一度も対戦したことがない。どんな剣術を使うのか楽しみだ。


とりあえず、もう一眠りしよう。果たし状を書くのはそれからだ。




「永倉?」

縁側でジッと立ったまま、俯く彼を見つけて首を傾げる。ボリボリとハゲ頭を掻きながらその顔を覗き込んだ。

「どうし…!」

突然、黒髪頭が懐へぶつかってきた。原田は思わず一歩後ろへ下がり、目を丸くして小柄な青年を見つめる。いつも汗臭いと嫌がる自分の着流しを掴み、胸に顔をうずめていた。

「…」

震えている。
あぁ、泣いているのか。


『二番隊から一番隊の隊長になれ』


幹部会議の時、土方が永倉に言った。まだ沖田の病が治ると信じている永倉は強く拒否をした。だが、土方はそれを許さなかった。この男だって、沖田が戻ってきて良いように席を空けておきたい筈。しかしテロが多発する中、江戸の為――いや、真選組の為にそんな私情を入れてはならない。今、真選組で一番の剣豪は永倉なのだ。


小柄な背中に腕を回し、子供をあやすように頭を撫でてやる。彼のこんな姿、隊員達には見せられないな。
小さく溜め息を吐き、沖田の自室を見た。誰かが入っていく姿が目に入った。


----------

この後、永倉君が沖田の病を治す薬を見つけだすってのもいいかもしれない。


のかな?

- ナノ -