「水族館に行きたい生きたい行きたい。お前にサンが救えるか!」
返信、「共に生きることは出来る。」

そう送ったら物凄い勢いで「シシガミさまァァァァアアアアー!」というメールが来た。何故三通も送る。アシタカだろ。
ぷち。スマートフォンの画面は真っ暗になる。だらしなくテレビが音を垂れ流していてうるさい。パソコンを閉じる。どれだけ電波に塗れていたのか。水族館か、と思った。だけれど俺には椎名と行く理由なんてなかった。こいつのために土日を割くのは何故だろう、そう疑問をもつ。水族館は好きだ、静かで、世界から遠ざかる。遠い水族館にしよう、近くは現実味を帯びているから、じっくりと見ていられない。よく言えばそういうことだが、悪く言えば、学校の奴らに見つけられてしまえば困るからだ。何時にどこ、それを考えつつ瞼も閉じた。


青い監獄、笑って椎名はガラスに張り付いた。水族館に失礼です。

「ついて来てくれてありがとーです園原。あたしは今日は海兵隊隊長であります」
「おー。…おー?」

曖昧な関係。白く、クラゲの触手がのびてゆく。小さな水槽。椎名は手を大きく広げて、窓を見えなくした。住んでる所より大分離れた水族館。居場所の無くしたイソギンチャク。俺はくるくるとまわる椎名を見つめた。イルカを見つめて、イワシの大群に手をついて、蟹に涎を出している。照明の暗い室内は涼しい。彼女の顔は青い色に染まっていた。べったりと手のひらをガラスに広げている。彼女はじっと動かなくなった。

「園原、あたしって園原の何?」

そうして急に振り向いて、珍しく笑った。ひどく動揺した。今、ここでそれを言うか。大きな亀がガラス張りの頭上をよぎる。椎名の目は黒く、俺を写してしかいなかった。

「…なんだろうな、友達?」
「あたしは園原が好きなのに?」
「俺もお前のこと嫌いじゃないよ」
「好きじゃないの?」
「好きだよ、ともだちとして」
「あたし、園原に迷惑かけるの好きって言ったけど本当はね、好きじゃないの」
「知ってるよ」
「だからね、あたし、あたしのせいで園原が困ってるのかなって」

ぼとり、涙を、落として。いきなり話が変わるのだ。飛躍し過ぎ。でも、そのまま追求されていたら、俺は返事に困っていたから、これは救いだと憎しむべき考え。しかしまあ可哀想な奴だと思う。今までそんなこと思っていたのか。意外過ぎる。奴にはそういった考えは無いと思っていたけれど。困っていたらメールも返さないし電話にも出ない、いつも隠れている自転車置き場だって探さない。彼女はよく泣く。みいみい泣く。

「俺は困ってないよ」
「でも友達としか好きじゃないじゃん」
「それは関係無いし」
「なんで」
「なんでってなんで」

みいみい。彼女に近づく。園原ぁ。ああ、随分と甘えたな声を出すもんだ。バカだなぁ。好きとか、嫌いとかじゃないんだよ、椎名。青い監獄。彼女は青い監獄にとらわれていて、じたばたと暴れるのだ。俺は、椎名のことが、好きなのだと思う。きっと。そうじゃなかったら、こんな風に彼女の手に触れないし、髪を撫でたりもしない。面倒を見てやりたいと思っている。けれどこれは、セックスやキスをするような好きなのではないのだ。でかいエイがぐわりと近づいて来て、椎名はびく、なんて肩を震わせた。可愛いとは思ったことがない。慈しみを覚えたことしかない。二人でこんな人の目に付くところで手なんて握っていたら、バカなカップルみたいでとても嫌だったから。外に出てベンチに腰かけた。椎名は鼻水を袖で拭った。きたねぇな。

「さっきのエイ松山に似てた」

嘘つけ。

「園原ー」
「何だよ」
「帰るー」
「……あ?」
「エイ見たから帰るー」

まだイルカもペンギンもアシカも見てないんだぞ。俺はぐっと言葉を飲んだ。こいつ、松山を思い出したんだな。松山は、椎名にとって最も嫌いな人間らしい。去年同じクラスだったが、なるほど椎名を虐めそうな人間だと思った。

「松山はここにいねーよ」
「わかんねーよ」
「アシカ見たい俺」
「何園原園原園原園原!そんなことを仰るの!?」

がばっと立ち上がる。ああ壊れた元のこいつだ。ふーふーと鼻息が荒いよ、お前は。そして俺の手を掴んで、立たせて、そしていきなり頭から鳩尾にタックルされた。俺はうずくまる。

「うっ…」
「園原可愛い!アシカ見よーぜオイ!」
「……」

あ、もうチェンジで。


好きは何故常に淫らなのかという議題
なぜ好きは直接的愛に繋がるのか200字以内にまとめなさい。さあまとめなさい。
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