は、と気付いたらバカ二人はとんでもない顔をしていた。あ、いや、と思ってる内にみるみる悪化していく顔。作りは良いのになんでそんな顔しちゃうのおばかさん。

「…なんちゃって!そんなこと思う訳ないだろ?」

浮ついた言葉。駄目だ、顔が近づいてきて、じわりじわりと服を掴まれ後少しで二人に食われてしまうと、そんなアホらしい考えも浮かんだりする。ようやく、金色の清潔な髪を揺らして、直は低く唸るように牽制した。

「…今まで、何で黙ってた」
「え、いやいやははは、冗談だって言」
「冗談?バカ言えよ、そんな真っ青な顔して、…こんなに手ぇ冷たくさせて、なあ、もっと早く言ってくれなかったの」

俺、病気が怖いんだ。

栄樹がそう目を逸らして言った時、はあ?と二人は笑った。そりゃそうだろ、何言ってんの。いや、そうじゃなくてね。怖いんだ。怖くて怖くて、死んでしまうことが怖くてただの咳がただの腹痛がただの頭痛が全部、俺を引き裂くように怖がらせるんだ。死にたくない死にたくないなんて考えて、泣きながら血液検査したりとか、そんなことばっかりしててね、それで夜も不安で寝れなくなって、体調が悪くなって、それでまた悪化してさぁ、

そこまでで直と柚月の酷い顔をしていたことに気づいた。

「なあ栄樹、何で?そんなに俺らが信用ないん?何で?」
「いやその」
「栄樹、」

泣きそうな顔。ああ、お前ら。今だって俺は怖くて怖くて身体のど真ん中が震えてんのに、そうやって俺を追い詰めなくたっていいのにね。そうしてまた吐き気が俺を襲う。胃がんかもしれない。どーしよ。

「…だって、バカバカしいでしょ。怖い病気じゃないのに怖がって怖がって、バカみたいじゃん。俺の身体じゃなくて、俺の頭がおかしいのに」

はは、と笑ってみる。笑わないと恐怖でおかしくなってしまうのだ。自分を貶して自分を守ってそんなまじないみたいな言葉の羅列。わかってくれないのだ。いくら言葉で伝えても、痛みも苦しみも怖さも、何にも分かっては貰えない。どうしたって死んでしまうという異常な自分の生への執着心に、自分でも飽き飽きとしてしまうというのに。他人に分かっては貰えない。

「おかしくない」

直は俺の手をとった。随分と温い手だった。怖くなった。俺の怖がりめ。

「一人で怖がんないでよ、ずっと、ずっと、自分でぐるぐるしてたんだろ。そこがバカなんだってのお前は。怖がるの悪くないから、俺たちにその怖いのよこして欲しい。なあ、よこして」

怖くなった。ひいと汚い声が出た。手を引くとそれでも腕を掴んで追いつく顔。泣きながら血液検査。泣きながら診察。バカバカしいと思いながら。バカバカしい。自分はなんて弱虫なんだろう。

「怖い」
「聞いてやる」
「死にたくない」
「お前と生きたい」
「今病気かもしんない」
「一緒に考えるから」

なあ、何で?俺こんなにバカバカしいことで悩んでるのよ?何できらきらしてんのお前ら。何でにやにやしてんのお前ら。泣いてんのか、って笑った直に腹立つ。べそべそして、泣き喚いて、不幸だと悲劇の主人公演じているのに。それでも良いのかよ、お前ら。

「ほんと、ごめん」

バーカ!髪の毛をぐちゃぐちゃにするのは頂けない、柚月よ。

「弱虫でいいよ。妄想男でもバカバカしくても悲劇の主役気取ってもいい。そんなんでお前のこと嫌いにならない。俺、お前が何かに怯えてても、お前のこと絶対怒らない。あ、でも怒るかもしれん。どーしよ、うーん、困ったなあ」
「お前何なんだよ」
「うるさいわ直いつまで手握ってんのきしょ」
「うっうるせーよ!」

はーあ直ばっかじゃ可哀想やし俺も握るわーと握られて、あーあ、と思ったすぐに何だか意味の分からない涙がばだばだ出できて、泣けた。何この格好かっこいくない。涙拭えない。駄目だ。手が熱い。

「ありがと」

汚い笑顔の後、二人に怖がってる病名全部明かしたら、数の多さに呆れもはいってて、へーとかふーんとか言って話を聞いてくれた。笑われたけど、まあ人を信用するってのは弱虫なりの勇気だと思って欲しいね、マジで。

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