僕には沢山の友達がいる。アメリカの大学にいきなり放り出された僕は、全く周りが何を言っているか分からない。ぶっちゃけ今もそんなに分かってない。今まで勉強してこなかったツケだと思った。
しかし、僕には一つ、特技があった。

「ナカノ!ナカノ!ディス!」

そこに居たのはアメリカ人のレオンである。彼の髪はくるくるだ。天然パーマがかかっている。僕の髪の毛は真っ黒ですんと真っ直ぐなので、とても興味深い髪の毛である。僕はディスくらい知っている。死かこれ、どちらかだ。これを願う。
見せられたのはゲーム広告のようだ。アメリカンなゲームから日本のよく知っているゲームから様々ドルと一緒に書かれている。僕はレオンの顔をみた。なんだかんだと喋っているけれど、首をかしげて一言、あいどんのーわっちゅーみん。これを言うと大概レオンはハハハと笑う。レオンは晴れ晴れとした性格だ。ここで来たのがベトナム人のファイだった。彼女がくると安心する。彼女は英語も日本語も喋れるのだ。

「ナカノ、コレ行動する可能する?バイレオン」

難読過ぎるのがたまに堪らなく困る。僕は仕方がないので、絵を描いた。僕の特技とは絵を書くことだ。特技と言っても、今までずうっと描いて来たことをただ今も描いているだけなのだけれど。レオンと僕がゲームをしてる絵。これ?と日本語で聞く。

「ノー」

ファイとレオンがきゃあきゃあと英語で喋っている。リスニング能力がつかない。いつまでたってもつかない。僕は困りに困って、(多分重要なことではないのだけど。)仕方なく理解の高いイギリス人のデイジーに視線をやった。デイジーはこちらを見てふっと笑ってiPhoneをいじった。裏切ったなデイジー。彼女の短い髪の毛は金髪である。怖い。うーん、と少し唸ってからまた絵を描く。今度はデイジーのラフな絵を描いて、二人に見せた。びゅうてぃふる、という言葉だけ分かった。そしてレオンがデイジーを引っ張ってきた。そしたらまたきゃあきゃあとヒステリックな声で僕を責めた。

「あいどんのおわっちゅーみん」

ぽかんとしてから、なおさらきゃあきゃあと英語が垂れ流される。ハハハと笑うレオン。レオンはデイジーに叩かれている。耳障りな英語だ。

「ヘーイイッツァピティ!」

突然の怒号。ああ、また彼か。彼は最近スウェーデンからやってきた頭でっかちのシュベルトだ。僕に英語を叩き込んでくれている。そして僕にデイジーの絵を描くことを強要してくる。デイジーの絵は得意だ。もう何回も描いた。何人にも頼まれた。デイジーは可愛いらしい。デイジーイズキュートだけ分かった。そして僕の絵を見て肩をぽんと叩かれた。
そして今の彼はふにゃふにゃ?とかなんか喋っている。彼が喋る英語は僕にはこう聞こえる。

「ナカノ!」

レオンに呼ばれる。何、と聞くとタカハシ!タカハシ!と言っている。高橋は高橋・フォン・エドワードという日本人とアメリカ人のハーフの父、オーストリア系のドイツ人とエジプト人のハーフの母を持つもう何がなんだか分からないハイパーナショナルクォーターの奴だ。僕は、とてもこいつが苦手である。こいつの家では英語と日本語とドイツ語とエジプト語(エジプト語ってなんだ。あるの?よく知らない)が入り混じった言葉が乱雑に使われている。仲がいいわけじゃないけれど、高橋の親が酷く僕の絵を気に入っているらしい。よく家に招かれる。外資系の仕事をしているエリートカオス一家なので、平凡な僕にはとてもつらい。
しかしこれらは僕の苦手という分類には入らない。僕が苦手なのは、彼の行動の不統一さだ。彼は語学が達者でとても頭が良いけれど、その分考えがとても独特で、純日本人の僕としては、そこまでユニークに富んでいると恐ろしいのである。しかし高橋コールをされては仕方ない。隣の講座にいるだろう彼を探しに行く。

「……高橋ー」

ぱっと亜麻色のウェーブがかった髪が揺れるのを見て分かった。そしてエジプトとドイツとアメリカと日本の良いところだけをとったみたいな、端正な顔をにこやかに微笑ませて手を振ってきた。そして手招きするとこちらに向かう。

「どうしたの慎太郎、」

あ、ちょっと言葉が外国語っぽい。僕はレオンのことを話すとは、と笑った。

「それはとても楽しそうじゃない」
「いや、僕的には困ってるんだ」
「慎太郎、君の絵は素晴らしいけど英語は学ぶべきだと思うよ」
「…」
「俺も行くから、理解しようとしたらどう?」

この理知的で発想にとむところが、苦手だ。和訳のような日本語。ゲーム好きだな〜俺と呟くところも謎めいてて苦手なところ。そして、僕の描く絵をとても褒める時もあればここがよくないそこがよくないと、あれこれ指摘されるのも苦手だ。僕は絵を描くことが得意というだけなのに。

「タカハシ!カモーン!」
「ハイ、」

また先ほどの講座に戻る。手を上げてふわりと笑う高橋。ぺらぺらぺーらとしゃべるとハハハと笑うレオン。僕はまた絵を描いた。ルーズリーフに、レオンと高橋の絵を。息をするように。自然と描いていた。それに気づいた高橋は、じいっと見つめてから、それからにやりと笑った。

「やっぱり慎太郎は英語を学んだ方がいい」

どうして、と聞くと、高橋はふう、とアメリカの三流映画のように肩を竦めて溜息をついた。久しぶりに少しだけ腹が立った。

「英語を学べば、君の絵を皆がどう思っているか、分かるよ」
「…別に、知らなくていい」

あれ、と高橋は笑った。るっく、ひいずられりぃあんぐりぃばっとなうひいずあんぐりぃいっつれあははは。英語と日本語ごちゃまぜにしてんな。デイジーもレオンもシュベルトもファイも僕を見ている。

「絵だけで、君はこんなにも周りからコミュニケーションを求められていることを、君は理解しているの?」

そうして、また高橋は笑った。何時の間にかレオンのゲームの広告話は終わっていた。僕の英語の話になっていた。僕は英語が喋れないし分からない、喋るつもりもない。ただ絵を描くだけで良い。息をするように。数字は分かるし、絵で伝わるし、英語なんて、言葉なんて要らない。

「世界を怖がるなんて、寂しいなぁ」

そう言って僕を笑った。だからこいつは苦手だ。ただ僕が他の人間が僕をどう思っているか、知りたくなかっただけであることを、こいつは分かっているから。

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