「こんにちは」
「こんにちは」

挨拶されたので、世の中に愛される笑顔で挨拶を返しておく。へらへら。昼休みに瑞希ちゃんをレスキューしてから、そのまま携帯を持って帰ってあげてしまって話す機会をつくったので、今、放課後に二人っきりで喋ることができている。
ただし正直に言えば、俺は彼女に恋愛感情なんて持っていないし、これからも持てないだろう。だから決してアタックしたいとか、そんなんじゃないもんね。うんうん。何故かと言われても、俺のストライクゾーンには入らないからだ。巨乳好きでロングが好きだと周りに言っている以上それを裏切ることは出来ない仲間は絶対だ社会的身分とは常に仲間で決定される意思は必要ない他者が笑うところで笑い悲しむところで悲しむ他者と他者を共有する他者と他者に依存する。これは、簡単なことであり、簡単なことではない。俺はそうすることでしか息が出来ないと知っている。

「矢野だね」
「俺だね瑞希ちゃん」

久しぶり。
彼女はあまり笑わない。けれど喋っていると時々微笑む。俺が冗談を言った時は真顔だけれど、俺が少し話題に困った時に、笑う。彼女は困った人。

「ああいう奴らは難しいから、気をつけてね」
「矢野は簡単な奴?」
「…どうかな」

少なくとも、難しくはないのだとおもう。そう思うと瑞希ちゃんは薄く笑った。あ、俺困った顔をしてたんだなと分かった。

「矢野」
「なあに」
「矢野はどうして松山と仲良くしようと思ったの?」

真っ黒な瞳が俺にピントを合わせた。煩そうな髪がぐったりと彼女の肩で力尽きている。参ったと思った。どうして?どうしてだって?

「じゃあ瑞希ちゃんはどうして園原と仲良くしようと思ったのさ」
「好きだから。でも、矢野は、松山のこと、好きじゃない」

好きも嫌いも関係がないことを俺は感じてしまった人間が人間と生きるためには自分を殺して自分を他人のものを模倣しそこから肉付けを加えていく権利でなくて義務なのである生きていくための義務だ上手く隠れるならば適当さを身にまとい誰からも愛され敵をつくらずそこそこに彼女をつくりへらへらへらへらへら。これが、俺が、17年間生きてきて身につけたことだ。他人を好きになったことは一度もない。他者とは自分と同じようなものだ。つまらない空っぽなもの。

「瑞希ちゃん」
「なに」
「俺はね、瑞希ちゃんみたいに生きてこなかったから」
「そう」
「うん、だから瑞希ちゃんが好きで動いても、俺は違うんだよ」
「かわいそう」

かわいそう。二度呟かれた。カッとなったけれど、俺の顔はそこまで脆くない。ひくりともせずに、愛される笑顔でははは、と笑うと、彼女は真顔で手を出してきた。携帯どーもありがとーアントがテン。
変わり者の彼女。俺は少なからず彼女に希望を抱いていた。彼女のように、好きで動けていたら。一方では彼女が好む園原は俺と同じ生き物だ。だから不思議で仕方ない。彼女は見えていないのだろうか。彼女が好きな人間は、俺と同じくしてかわいそうな人間なのだと。それともなんだろうか、園原は違うものでももっているというのか?それは憎くて、寂しくて、またやっぱり一つの希望でもあった。

「園原に渡しちゃった」
「なんで」
「そうしたら、園原が瑞希ちゃんのところに来るでしょう?」

がばりと顔をあげた。ありがとうやの。そして走って教室を出て行った。あれでは彼女が園原会いにいくのと同じだ。まあいいか、と思った。俺にとって彼女と園原は少しの希望と、絶望、目標であった。俺もほんの少し、足を動かして、他人の目を無視して走り抜けてみたい。そんなこと、彼女に会う前は思ったことなけれど。ぴょこぴょこと跳ねる髪を忘れることもなさそうだ。

自分は自分でなくて他人のような存在なのに君は僕じゃない僕は君じゃない他人なんてうんざりなのに君でないのは何故!
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