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おれそういうのきらいなんだ

笑って腹黒男は言った。こいつは優しい。けれど真っ黒な髪と同じくらい、腹の中も真っ黒だ。少しでも奴の恋人が浮気とか、そういうことをすれば相手が一番傷つく言葉をさらりと吐いて、そこから相手が苦しむ様子をゆっくりと見てから「別れよう」と笑う。そういう男だ。俺はこいつのオトモダチというものである。そのような所を何回も見てきた。その度にお前は本当に性格が悪いなと言う。そうすると俺は君ほど優しくないからねと、今度はあからさまに不機嫌な様子で言う。こいつは恋愛に鋭い。そして、醜いほどの腹黒だ。

「お前なんでああいうことすんの?」

今日もこいつと別れた女が泣いて謝って来ていた。後ろめたいことがあったのだろう。女の謝罪は見ていて恐ろしい。この世の中の風潮に犯されている俺は、女が謝るとこちらも申し訳なくなるからだ。しかしこいつは笑う。勘弁してよと。

「別に、意味なんてないよ。面倒だから別れただけ」

俺はぼけっとこいつの顔を見てやった。穏やかで、明るい顔である。何回も女が告白するのも見た。何回かこいつが誰かに好きだと伝えているのも知っている。節操のない奴、というよりも恋愛に鋭い奴なのだ。自分の愛も他人の愛も全て分かっているから付き合ったり別れたりする。

「まともな別れ方知ってんの、お前」
「はは」

曖昧な答えも腹黒が何考えているか分からないことだ。俺は、腹黒いこいつの脳内がどうなっているかよく知らない。多分、今もこいつは誰かをどうやって悲しませるかを考えているのだ。
例えば、俺とか。

「まだ怒ってるのかよ」
「別に?」

二年前に俺から別れを切り出した。オトモダチに戻ろうと言った。こいつはぱちぱちと目を瞬かせてから、仕方ないなあと、笑っていったのだ。俺は散々に浮気をした。こいつは笑っていた。何にも知らないふりしてあの手この手で、俺に浮気したことを謝らせようとしていた。それは、多分、こいつが俺を好きだったから。俺が浮気性だったのも、全部知っていたのに。俺が謝るほど気の弱い男でないことも知っていたのに。こいつは笑って言う。「隠し事なんて、だめだよ」と。それは俺には、弾丸ほどの小ささで、まあ確かにズドンと一発クるものはあるけれど、負けるわけにはいかなかった。そうして俺から別れを切り出してやったのだ。こんなのは不毛だと。面倒だと。こいつは笑った。仕方ないなあ。
俺やこいつの友達はヨリを戻せと自分のことのように言ってきかなかったけれど、もうかれこれ二年、俺達は何のこともないようにオトモダチを続けている。苦しいけれど、それはこいつも同じだ。腹黒はきっと苦しんでいる。

「お前、俺のこと好きだろ」
「君も、俺のこと好きなんじゃない?」

ふふふ、真っ黒な髪と真っ黒な腹。お前のはらわた引き裂いて糞尿垂れ流してやろうか。それほど、こいつの腹黒には参っている。

「俺悪いけど浮気性だから、お前にあの手この手されちまうからなあ」
「俺も悪いけどこういう性格だから、君のプライドの高さには飽き飽きしちゃうからなあ」

桟にもたれていたこいつは俺を見た。腹黒い。何考えているか分からない。それは俺もそうなのかもしれない。実はこいつも、俺の腹黒さにはらわた引き裂いてやりたいと思っているのかもしれない。真っ黒な腹。真っ黒な髪。優しい顔して、醜い中身。
俺もこいつも駆け引きとやらが得意だ。恋愛も得意だ。見せつけて。あの手この手で。綱引きのように引いたり引かれたり、さてこの勝負はまだ続いているのだけれど。まだ始まってもいないだけれど。

「何時になったら俺のところに戻ってくるの?」

腹のくろぉいくろい、駆け引き上手。

ハラワタ

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