気づいたら部屋にいた。それまで意識があるつもりではあった。吐き気と眩暈と、身体が固まっていて、それどころはなかったけれど。身体の感覚が失われていた。はあ、とようやく少しばかり現場を把握しようとして、時彦が辺りを見回すと、自分は寝かされていた。腕には点滴の管が繋がっている。病院か。朧な思考と、どこか身体がおかしいのかと思う不安が入り乱れて、嫌になった。チャリン、今まで持っていたらしい何かが、時彦の手から落ちた。

「時彦、」

ふと、横を見たら、ふらふらと立ち上がって近づいて来る郁巳がいた。時彦は、何か言いたくて、しかしまだ、固まる顔の筋肉が言うことをきかない。震える唇。

「いく、ぃ」

上手く喋れない。額に小さなガーゼが当てられている。時彦が倒れた時に、アスファルトで擦れて血が出たらしい。

「時彦、なあ、お前、やめろよ、時彦」

郁巳の死にそうな顔に、時彦は申し訳なくおもった。悪いことをした。そうすら思えた。
遠くで声が聞こえる。いつだかも、遠くで声が聞こえた気がする。郁巳は、時彦の髪を撫でて、隣の部屋に向かった。時彦は酷く不安になって、また、うつらと、朧な思考に溺れてゆく。

「明日、再検査しましょう」

今日ではないのだ。冷静に喋る医者に対し、郁巳は憎しみを覚えた。時彦はあんなにも苦しみを表現していたと言うのに、問題は明日からしか解決されない。分かりましたと答えることしかできない。郁巳は、時彦が心配でならなかった。そして、医者に時彦が倒れていた状況を説明した。患者との関係はと聞かれたので、郁巳は同棲していますと胸をはっていってやった。ルームシェアですね、と言われて、この野郎と思ったが、黙っていた。

説明が尽きて、点滴が終わり、ある程度回復したら自宅で療養しろと言われて診察室から追い出された。つくづく嫌な医者である。郁巳は時彦の顔を覗く。

「ごめん」

薄く目を開いている時彦が、郁巳を見つめて小さく喋った。喋れるようになったのか。


「……なんで謝るんだよ、やめてくれ」

そして、看護師は億劫そうに起き上がる時彦の腕から、点滴を抜いた。白いテープが貼り付けられた。
診察代を払い、よろめく時彦を支えて、タクシーを呼ぶ。ごめん、と何度も呟く時彦に、謝らなくていいと、何度も言う。運転手には、彼等がどう思われたのだろうか。

マンションにつくと、時彦は、崩れるように、布団に横になった。寝る。そう一言だけ郁巳に述べて、死んだように眠った。郁巳は心配になり、何度か彼の呼吸を確かめに口元に耳を当てた。気が気でならなかった。カップラーメンに腹がたっていた。

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