どくりどくりどくり。心臓の音も機関銃の音も戦闘機の音も掻き消してゆく赤が恐ろしい。戦争とはいかに正義を喚くかが肝である。戦争で少しでも揺らげば途端そいつはそこら辺に転がる死体に成り下がる。ヨタカは汗をようやく拭った。熱い。血が外にも中にも這うこの体が軋みをあげて、しかしそれでも歯を食いしばって簡易支給地に向かった。はあと息を出す。ふとヨタカは遠くの仲間の兵を見た。随分と怪我を負っているらしい。腐っても人間で、痛みを悲劇的に叫びにのせていた。死ぬかもしれない。死か。ヨタカは、眉をひそめた。ヨタカは優しかった。優しさを捨てようとする優しさがある。せめて、彼に煙草でも。そう思って弱く走る。

「死にたくない、ぃ、いたい、死にたく、ないんだ、ああ、痛い、痛い、痛いんだ、痛い」

彼は頭から口から首から血が溢れている。彼も熱いのか。生というものに熱く煮えたぎり全て溶かしてしまおうと全て燃やしつくそうと業火をあげているのか。
煙草に火をつけて、真っ赤にするその名前も知らぬその男に近付き差し出そうとした。
パアン。

パアン。やけに響いた音だった。掻き消されていた赤は銃声によって流れ落ちた。ヨタカは目の前に現れた赤に塗れた金髪を見た。揺れる金髪をそのままに後へサーベルを流し斬る。ぐぁあ、と間延びした叫び。前の、先程血だらけの仲間と、後の蜂の軍服を着ていた敵は死んだ。

「…、…オー、ベ、ル」
「ヨタカ、死にますよ」

唖然とするヨタカにオーベルはサーベルを鞘にしまった。どこから現れたのだろうと思って、塹壕の上を見たらマクフォーレンがいた。血だらけのオーベルは酷く寒そうで、なんだか彼だけは炎を感じられない。辺りばかりが赤く熱く燃えているのに彼ばかりは冷気を纏い冷えている。そうバカなことを思った。

「それは多分蜂です。だって銃弾が13発もめりこんでる。後ろから仲間が自分ごと切られてヨタカを殺そうとしたんじゃないですか」
「あ、」
「ヨタカ、…あまりそんなことをしていると本当に死にます。正義の反対は死だ。正義を掲げて、何も振り返ってはダメです。ヨタカは捨てなさい。持ちすぎですよ」

淡々と喋るだけ喋って、オーベルはマクフォーレンに縄梯子を降ろしてもらっていた。ヨタカをもう一度見て、腕の怪我を見つけたら布を渡す。あまりに冷えた眼であった。

「そうしていくつ繋ぎとめられますか?」

オーベルの眼にうつるヨタカは憔悴していたから、マクフォーレンはやめなさいとついにオーベルに口を出した。オーベルは、少し首を傾げて、はいと答えた。ヨタカは、はあと息をつく。縄を這う。血のように。オーベルもヨタカもマクフォーレンも誰の血管なのだろうか。正義のために自分達は血の管となり糧とされて、それで良いのだろうか。もう分からないと思った。マクフォーレンもオーベルも分からない。自分は何を持っている?強さも持ち合わせていない、分からないと思った。火を点けた煙草はマクフォーレンが奪って美味そうに吸っているのを、ただ虚ろな瞳で、真っ赤に燃える体で、覚えた。

正義であると言うのか
(失うものすら捨てろと言うのか)



※友人のキャラクターをお借り致しました
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -