borokire/峰久原と折谷

ラッキーにも峰久原は電車に座れた。満員電車、なんて言われればそういうものなのかもしれない。男子高生であるが携帯やら何やらはしないで、ただずっとぼんやりと、今日のことを思い出す。今日のパンはもう食べないことにした、化学が難しい、どうして城崎は英語があんなにできないのか。そんな風に思考がふらふらしていた時、嗚咽が聞こえた。あー、なんて思って、きっと隣の若いスーツの彼もあーあーって思ってるのだと分かった。少しだけ探すように瞳を動かす。目から涙をぼたぼたと落としている。この子か、なんてその後、峰久原はびくりと肩を震わせた。ちょっと待て、彼は知ってるというか友人ではないかと目を見開いた。あんなに号泣しているのを見て、何か思うこともあるのだが、ひとまずどうして泣いているのだろうか。
ドアが開く。すぐに彼は飛び出した。よって峰久原も駅はここではないけれど、降りる。まばらになる人。よろよろとしている彼に、峰久原は躊躇いがちに口を開いた。

「折谷くん」

折谷は立ち止まった。峰久原も立ち止まる。人は2人を追い越していく。

「………峰久原じゃん」

鼻声に、峰久原はほんの少し後悔したが、しかし友達が泣いているのに後悔もなにもないのだと彼なりに威勢よくする。

「あの、…遊ぼうか」


途方もなく歩いている。遊ぶといっても、事実峰久原はあまり一般的な男子とは認められないタイプのため、夕方から誰かと遊ぶなんてめったにしないのだ。どうするのかと雰囲気で伝える隣の彼に、頭を悩ませた。

「ゲーセンで良いよ」

今まで無言だった折谷は、俯きながら、呟いた。峰久原は、ああそうかゲームセンターか、と気づき、そして結局折谷に助けられたと意気消沈する。
丁度近くにゲーセンがあった。だから折谷はここを選んだのかもしれない。ドアを開く。耳をつんざく騒音に、峰久原は思わずびっくりした。男子が沢山と、女子高生。見渡していると、折谷はぐず、と鼻をすすって、何故かまた泣き出すから、慌てて峰久原はUFOキャッチャーを指差した。

「僕はあれを1000円以内で落とします」


20分後に自分は全くダメであると気づく。ターゲットを掴むことすら無理だった。でも途中で、折谷がくすりと笑ったり、コツを教えてくれたりして、安心出来た。最後の100円、頑張るねと峰久原がボタンに触れた時だった。折谷が峰久原を覗いた。赤い瞳を今日初めて見た。ぐずり、そして薄く笑った。

「俺に100円ちょうだい」

彼は峰久原の指をはらって、ボタンを押す。淡々と作業をこなした。ガタンとアームは狙いの人形を掴み、そして、簡単に穴に落とす。下から拾って、ぽかんとする峰久原に渡した。

「似合うね」

別に、凄く欲しいものでもなかったけれど、なんだか酷く大切なもののように思えて、みるみる実感していく。

「…君ってこういうの得意だっけね」
「峰久原が下手なんだよ」

痛々しく笑っているから、つい、目を逸らしてしまって。
結局また彼に助けられた。何のために引き止めたのか分からなくなってきたが、でも遊ぶのは楽しい。これは確かに毎日行きたくなってしまうと言う城崎にも納得出来た。

「どっか行って座ろうぜ、…ちょっと疲れた」

それに峰久原は賛同した。ファーストフード店も近くにあるのだから、やはり折谷がここらで遊び慣れしていることは明らかだった。そちらに向かう。歩いていくが、話はなかった。何とか話をしようと思ったが、途中で、再び折谷が泣き出したから、峰久原は口を閉じる。しかし前を行く折谷が振り返った。泣き腫らした瞳。ネオンが映る涙。

「今日、」
「…うん」
「色々あって、上手くいかなくて、俺って、何も出来ないなって思って、」
「…、」
「でもさあ、お前が呼んでくれて、俺嬉しかった、よ。このまま泣き寝入りもやだったし、…だから、ありがとう」
「…折谷くん」

でもやっぱり、飯ついてきてくんね?そう言って、目を逸らした彼に、お腹減ったよね、と、笑ってみたら、また彼は泣き出すから峰久原は意味のわからなさにどぎまぎとしてしまうのだ。

その下手な慰めがどれほど僕を助けてくれたのでしょうか。その優しさは僕を浸らせてくれたけれど彼はまだ知らない。
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