▼バイトト。
ナマエside。
今日はもう閉店したジム兼レストラン。
準備が終わってからもう30分経過している。
そんな時間になんでバイトに応募しただけのわたしが居るのかといいますと、
「何で入ろうと思ったんだ!?」
「よっぽどの理由があったんですよね!?」
「そりゃそうですよね!?」
なんて風にパニック状態の3人に質問攻めにあっているからだ。
(答えようとする前に次の質問に入るから、どうやっても話が進まない。)
「あ、あの…ちょっと落ち着いて……!」
がんばって3人を落ちつかせるけど、目がものすごい輝いている。
「…そんなにバイトに応募する人って、少ないの?」
レストラン兼ジムだし、おしゃれな内装だし、ジムリーダーってあこがれの的に
なりそうだし、ファンもつきそうだし。
応募する人が少ないとは到底思えない。
「いえ、多いですよ。
しかしどうにもこうにも昼時が大変でして…年々減ってきてるのは確かです。」
コーンさんがしみじみと言うと、他の2人もうんうん、と頷いた。
「……理由なんだけど…わたし、おととい位から…旅に出てみたはいいけど……
右も左もわかんないって感じだし、とりあえず働こうと思って働ける所探してたの。
3人とも仲良くなれたし…ね?」
ね?、ってなんだろうね。
「え…じゃあ残りの4匹は一体?」
コーンがとても驚いていた。
「そうだぜっ!コーンがナマエのポケモンめちゃめちゃ強そうって言ってたんだからな!」
コーンが言うんだから、間違いないぜっ!とポッドが言う。
「…それはぼくも気になりますねー。」
おっとりとしているがなんだかんだでデントさんはいちばん目をぎらつかせてる。
「ええと、それは…。みんな、でてきて!」
わたしがボールから全員出すと色も形もさまざまな6匹が出てきた。
「バチュル、イシズマイ、タブンネ、ゼブライカ、サザンドラ、アバゴーラ…
タブンネはともかく、他は少なくともサンヨウより遠く行かないと手に入らないぜ!」
「アバゴーラは確か化石から復元するポケモンだったはずですし…。」
「サザンドラもなかなかここまで進化するのはきびしいですよね。」
3人は驚愕の表情を浮かべたまま、視線をわたしに移す。
説明してくれ、ということだろう。
「バチュル、イシズマイ、タブンネ以外のポケモンは…お父さんから借りてるの。」
お父さんは心配性だし、なによりわたしがポケモンも持たずに飛び出そうとしたからあわてて用意してくれたのがこの3匹だった。
いざという時の為に、と。
明らかにわたしのポケモンとお父さんのポケモンでは目つきが違うし、納得してくれるだろう。
「そういうことだったのかー!やっと謎がさっぱり解けたぜ!」
「なるほど…どうりで目つきが格段に違うと思ってましたよ。」
「でも、他のポケモンはどうやって?」
3人が一瞬すっきりした、という顔をしていたがデントの質問でまた疑問を浮かべる表情に戻る。
確かに右も左も分からない旅をしていれば3匹は捕まらないだろう。
「…バチュルは、お母さんが誕生日のお祝いにポケモンのたまごをくれたの。
ある時孵化して…その時は驚いたけど。
……イシズマイは拾ったの。わたし、元々カラクサタウン出身で…
旅に出たときに2番道路に行ってみたら、捨てられたイシズマイが居て……」
3人は顔をしかめた。ポケモンを捨てる、というのは本来なら禁止されていることなのだからそれもそうだ。
「そのときはイシズマイ…大変だったよ。……焦ってカラクサに引き返して、お母さんもお父さんもびっくりしてた。
それでポケモンセンターにいって…1日くらい待って。次の日……行ったら元気になったイシズマイの姿があって、安心したけどね。
タブンネはその後再出発してバチュルとイシズマイと一緒に2番道路に行ったときに捕まえたの。」
こうして見ると、タブンネはストーリー性がないようにも見える。
しかしわたしにとってタブンネは初めて捕まえたポケモンだったのでその衝撃は十分大きかった。
「なるほど。…でもなんで旅に出たのに、働こうと思ったのですか?」
折角のチャンスなのに、とコーンが言った。
「……恥ずかしい話なんだけど、わたし見ての通り方向オンチで…人見知りなものだから。
とても旅には…向いてないんじゃないかなって。」
それに加えて不器用。
わたしの短所はわたしが一番よく知っている。旅はどう考えてもわたしには不向きだ。
「そうなんですか…それでは今晩はご両親に連絡を入れて、明日からここに来てください。」
コーンが言う。ここで働いてもいい…。そう言われたのだ。
「本当に!?」
「嘘ついてどーすんだよっ!」
ポッドが言う。そりゃそうだ。
「ぼくもうれしいですよ!」
デント、多分今わたしのほうが嬉しい。
「それじゃあ……今日はどうもありがとう…。……色々と。」
おやすみ、と言ってわたしは立ち去った。今日からポケモンセンターでの暮らしが始まる。