秋も過ぎ紅葉も散り本格的に冷え込んできた。わたしは歩いている内にずり落ちていたピンクのマフラーをあごの辺りまでひょいとすくい上げた。この季節はなぜだか特に任務が多いと廉造は言っていた。季節の変わり目で気分が落ち込みやすいからだろうか。推測したってわたしが答えを知る術は無いのだろう。だからわたしは任務のことは忘れることにした。まだ秋にも関わらずこんなに寒い原因の一つには制服のスカートの丈にもあるとおもう。わたしと同じ女子高生達の言う「オシャレ」には人一倍疎いわたしだから、別にスカートの長さなんてどうでもいいしむしろ寒いんだから長いほうがいい。でも、長くはできない。


それはなぜか。単に廉造の好みだからだ。ピンクのマフラーだって去年の誕生日廉造がくれたものだしちょっとゆるいネクタイの結び方だってずっと前に好きだった人の為に伸ばしてた髪をばっさり切ったショートだって全部全部廉造の好みだ。わたしの外見はほぼ廉造に染まってると言っても過言では無いだろう。ファッションセンスのいい廉造の好みに染まっているから、俗に言う「オシャレな女子高生」にぎりぎりわたしは分類されている。


落ちていく枯葉を踏みながら、ふらふらと歩いていくわたしは一見あても無くさ迷って見えるだろうけれどわたしの中には明確な行き先があった。いつも廉造と行っていた公園に、珍しく廉造がわたしを呼び出した。いつも誘うときはわたしからだった。とても嬉しくて嬉しくて今日の服装はいつも以上に気合を入れてしまったような気がする。と言ってもやっぱり制服なのだけど。




「廉造こないなあ…。」


待ち合わせした公園に30分も早く着いて、待ち合わせした時間から1時間過ぎた。つまりわたしは廉造を1時間半待っていることになる。何か理由があるのかもしれないと思いながらも自分の中で不安が渦巻いているのが分かった。もしかしたら事故にあったんじゃ。もしかしたら期待するだけ無駄なんじゃ。ただのいたずらだったんじゃ。いやいや、二個目からは無いだろう…多分。いつまでも立っているのもそろそろアレなので、適当にベンチを見つけて枯葉をはらって座り込む。


だんだん落ちていく日に不安になってきた。風が吹くたび自分の髪やマフラーに合わせてゆらゆらと揺れている影を見つめながらも廉造の影を探すけれど、あれから1時間経っても廉造はまだ来ない。そろそろ帰らないとお母さんのお気に入りのフライ返しが飛んでくるだろう。ちらりと公園の時計を見る。…廉造には悪いけど、今日は帰ろう。そう思って腰を上げようとした時だった。


「わっ」


視界が突然遮られた。突如暗闇に襲われ、内心のパニックを隠せず声が漏れる。目が塞がれているのだろう。この時間だったら不審者だってありえる。どうしようどうしよう。さらにわたしがパニックになっていると、後ろからくすくすと笑い声が漏れた。その声の主を、すぐにわたしは察することが出来た。


「れ、れんぞ…!」


「ナマエ、遅くなって堪忍なあ。」


声の主の名前を呼ぶと、暗闇を作り出していた手は容易く解けた。代わりにわたしの大好きで大好きな人の眉を下げて笑う顔が視界に映る。それだけでわたしは顔を綻ばせた。


「大丈夫!廉造来てくれたし!」


でも心配したんだよー、もうすぐ帰らなきゃって時間だったし。と付け加えると、廉造はもう一度謝った。廉造は確かに遅刻しがちなところがあるけど、こんなに遅れるのは珍しい。本当に何かあったのではないだろうか。


「廉造、こんな時間まで遅れるまで珍しいよね。何かあったの?」


尋ねると、みるみるうちに廉造が縮こまる。そしてついには耳まで赤くしてしまった。なにかそわそわしたような様子であのーとかえーと、だの言っている。


「…ん?」


「こ、これ!」


受け取ってくれとばかりにまっすぐに突き出すように勢い良く差し出されたそれは、黒く小さな箱だった。


「ほんまはもっと早う来るはずやったんやけど、思ったより任務が長引いてしもて…。」


箱を開けると、銀の指輪だった。小さなハートが公園の電灯の光を受けてきらきらと明るく反射している。廉造がそうなったように、わたしもみるみるうちに赤くなって(いるだろう)、縮こまる。


「えええええええこ、これって…これって…。」


「えっと。…オレが祓魔師にならはったら…け、結婚しておくれやす!」


ビシっと背中を伸ばして大きく廉造が頭を下げた。


「今はまだ頼りまへんかもしれへんやけど、祓魔師にならはったらもっと頼れるようになって絶対にナマエを幸せにしはる。」


そう言った廉造にわたしは目を丸くした。指輪を貰っただけでも、十分目を丸くする出来事なのだけれど。まさか、廉造がそこまで考えてくれていただなんて、思ってもみなかった。


「あ…う…その…。」


廉造が頭を上げてまっすぐにこちらを見た。その目には今までわたしが一度も見ることの無かった、覚悟がこもっているように見えた。さっきまでへらりと笑っていた廉造とはまるで別人のようだ。無言の時が刻まれる。


「……喜んで。」


あまりの恥ずかしさに俯きがちに頷いたわたしを、廉造は優しく優しく抱きしめた。






大きなより小さな幸せはあるらしい


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某ボカロ曲の歌詞より拝借。京都弁あってますかね…。




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