消えてしまった。いや、現実厳密に言えば消えてなんかいない。確かに向こうの世界では生きている。しかし、この世界から彼は消えてしまった。それは私達の関係の終焉を意味する事だと気づくのに、そう時間はかからなかった。エドラスのジェラール、つまりこちらで言うミストガンは、私の恋人であった。最愛の人であった。ミストガンからアニマや彼自身の正体もずっと前に聞いていたから、薄々こうなることは私が一番よく分かっていた。踏み入れてはいけないところに来てしまったのも十分に理解していた、はずなのに。私が一番ついていけていない。


「皆だって辛いと思うのになあ……。」


いつもなら優しく頭を撫でながら耳元で聞こえてくる「ナマエなら大丈夫だ」という声が返ってくるはずも無く。正直ちょっと期待してしまった自分に気がついてなんとも言えないような虚無感に包まれる。ミストガンとの思い出、1つ1つを思い返しているうちに家のベルが鳴っていることに気がついた。


「…誰だろう。」


一番最初に頭を過ぎったのは、やっぱりミストガンだった。……ありえない。誰だろう。私は玄関のドアを開けた。


「ナマエ…大丈夫?」


「…ルーシィ。」


そこに居たのは、不安げに眉を下げた私の大事な仲間であり、親友でもある、ルーシィだった。ああもう、ばか。予期せぬ来客にちょっとうるっときてしまった。そんな私に何も言わずにルーシィは私の背中をさすりながら私の部屋へと入っていく。どっちが来客だかわからないぐらいルーシィはしっかりと意思を持ち、私を包み込むような優しい目をこちらに向けていた。


部屋に入ってからは私は爆発したようにわんわんと泣き続けた。ルーシィはその間何も言わずにずっとずっと私の背中をさすり続けた。たまにティッシュをくれた。でも私の目から鼻から液体がぼろぼろと出てくる。汚い、はしたない。ぼろぼろぼろぼろ止まらない。やっと止まるころにはもう私の目が真っ赤になっていただろう。ルーシィがぽつりぽつりと話し始めた。


「…今日はね、この話がしたくて来たの。」


「…?」


ルーシィから紡がれた話。それはいつか、ミストガンが話してくれた物語だった。仲がよかった男女は引き離されてしまったけれど、1年に1度会えるというような話だった。この話をし終わった後、ルーシィはにっこりと笑った。


「私も…いつか、また会えるかな。」


「大丈夫、絶対に会える。」


「……信じてれば、会えるよね。」


いつかきっとまた会える。思い出した、ミストガンはこの話を忘れなければまた会える、と言っていたっけ。…忘れはしない。ミストガンとの思い出1つ1つも、この話も胸に抱えたまま私は仲間達と歩んでいこう。ミストガンだって、今頃新たな国王になって大変なところなのだろう。お互い辛い。空の向こうでも、この話を忘れなければ分かち合えるに違いない。窓から見えるのは、私がまた泣き出してしまいそうなぐらい綺麗な星空だった。






叶わない口約束の先がくとも明日はくともそれでも君をしてる
(きっとあなたも覚えているよね。)


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title:夜風にまたがるニルバーナさま / 七夕記念




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