「ねえナマエ、今朝は初雪だったよ。」


マツバは微笑んだ。初雪は粉のように重さを持たない雪だった、とマツバは話す。私からすればそんな雪なんかよりも、マツバの微笑みのほうがよっぽどふわりとしていたのだが。






季節が過ぎるのは早い。
その早さはとっくに私の背中を追い越して、マツバと並んで過ぎていく。しかしあくまでも、私から見た「季節の過ぎ方」でしかない。マツバから見た季節はどう移り変わっていくのだろうか。つい最近まで同じように並んで季節を過ごしていたはずなのに。その思考を察したかのように、マツバは首を傾げ、また曖昧に微笑んだ。察するどころか、彼は千里眼の持ち主だからきっと私の思考なんて筒抜けなのだろう。


「梅は好きかい?」


マツバは不意に問いかけた。梅。もう咲く季節まで数ヶ月だろう。見たいという希望は叶わなくとも、私は梅が好きだ。頷きながら仄かな寒さの中に香る桃の花に思いを馳せた。


「それじゃあ」


少しの沈黙の後にマツバは切り出すように話を持ち出した。


「ぼくの庭に梅が咲いたら見に行こう。とてもうつくしい梅がもうすこししたら、咲くんだよ。」


鉄の棒の隙間をマツバの長い指がするりと通り抜けて、私の頬に触れた。やはり冷たい温度をしていたけど私は何の抵抗も示すことなく私の頬を這うマツバの指を受け入れる。


「だからしばらく待っててね。」


この檻の中で。そう付け加えたマツバの指が私の頬を離れて、マツバは背中を翻した。曖昧な微笑みを浮かべたままゆっくりと歩いていくマツバを私は伏せ目がちに見送った。……つい最近まで同じように並んで季節を過ごしていたはずなのに。いつから私だけが歩みを止めてしまったのだろう。誰かにも問いかけることのなかったその思考は「まあいいか」の一言で終りを告げた。






花と檻


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監禁まがい title:すなおさま




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