1日目:誰ですかあなた
昼休み、屋上にて。

「咲ちゃあん?」

「ひいいいいいいひなた!ひなた!とりあえず落ち着こう!ホラ、お話しよお話!」

「咲チャンのお話なんぞとっくに聞きあきましたとも。それじゃあ昨日の食い逃げの件について小1時間お話しよっか?」

咲は逃げ場が無くなって顔を引きつらせながら後ろの壁に張り付いた。そこでわたしのげんこつが一つ炸裂したのだった。

「ごめん!ほんとごめん!昨日テンションあがりすぎちゃって!」

手を拝むように合わせてごめんを連呼する咲。うーん軽い。お金の価値がどうたらなんてお説教する予定は無いけど軽い。クラスメイトにちょっとぶつかっちゃった時のあっごめん並みに軽い。わたしははあ、と一つ息を吐いた。

「そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな。」

「鬼畜!ひなた鬼畜すぎるよっ…!」

そう言って咲は駆け出しかけた。かけた、のだ。

「人の携帯条件出して使った挙句食い逃げして、現実からもわたしからも逃走なんていい度胸じゃないですかあ咲チャン。」

わたしは咲の首根っこを掴む。ぐぇ、と声を出して振り返った先ににっこりと笑う。つまりは昼飯奢ってねということだ。

「……1000円までね。」

わたしはぱっと手を離して食堂へと駆け出した。今日はフルコースだ。


食堂でわたしはおにぎりをほおばりながら咲と報告会とやらを開いた。昨日帰った後どうだった?今日朝どうだった?の2つを聞かれた。なんとも無かったと言ったら即行解散、咲は逃げるようにして帰っていった。今日は中学にしては珍しく4時間でこのお昼以降授業が無い。よし、帰ろう。わたしはとぼとぼと一人空しく家への帰路をたどった。

***

そんなこんなでわたしin自室。
かえって即座に制服を脱ぎ捨て私服に着替えたわたしはベッドの上でごろごろしてる。うーん、眠い。とっても眠い。壁をじいっと見ながら考える。しかしテスト期間にも関わらずここで諦めて寝たら試合終了だよ。と安西先生が言ってたのでわたしはよっこらせと体を起こす。よし、起きよう。まあ一通り予習復習終わってやることも無い秀才なわたし(イメージの中だけで)はぼうっと天井を見ていた。そういえば3年前に天井の染み食パンみたいだとかいって咲と爆笑したなあと思い出す。あの頃はわたしも若かった。今もだけど。

「…え。」

天井の染みが広がってる?ちょっとわたしどうしちゃったの白昼夢とか辞めてよね。わたしは目をこすってみるけど、やっぱり天井の染みは広がり続けていた。これって手とかがすーって降りてきて引きずり込まれるパターンじゃなかったっけ。咲がそんな怪談を去年の夏休みに話していた気がする。懐かしい。いや違うわたしは今ノスタルジアに浸っている場合じゃないのだ。現実を見なきゃ。まだ広がっている染みを見ていると、人間の手らしきものがすーっと降りてきた。

「ひいっ!」

わたしは慌てて枕を手に取った。なんで枕なのか分からなかったけど枕だった。もう一本手が降りてきた。幽霊と戦うならもうちょっとまともなもの装備しろよ、さっきのわたし。これは駄目だ、死ぬ、死んじゃう。あの世に逝っちゃう。そう思ったらぼたっと黒い染みから主に青と黒の何かが落ちてきた。

「何これ…?」

足が2本、腕が2本。目が2つに鼻1つ、耳が2つに口1つ。これなーんだ?

「…人、だ。」

はい自問自答ありがとうございました。そう、わたしの目の前に転がってるのはまさしく人だった。うーんと言ってしばらくもぞもぞと動いていたが急にがばっと起きた。

「ここどこだよ!?」

わたしと同い年くらいの人、男の子。あらあら茶髪なんて珍しいこと、最近の学校は校則厳しいのになあ。大きな目がぱちくりと瞬きをしてからわたしを見つめた。

「俺のポケモンどこにやったの?お前。」

「へ…?ポケモン…?」

ぱちくりしたいのはこっちだ、だって今この男の子はポケモンと確かに言った。DSソフト、無くしちゃったのかな。DSごとだったら可哀想だな。貸してあげないけど。

「ダイケンキとか俺の相棒達どこやったたんだよ。知ってんだろ?」

殺人の1つや2つほいほいとしてしまいそうな表情で男の子は詰め寄ってくる。いやいやいやいや…データどこやったとか言われてもわたしその道のプロじゃないんでちょっとよく分かんないですとしかお答えできない。きっと彼のDSとゲームデータは手足が生えて猛ダッシュで逃げたんだ。

「そんなに顔ぐちゃぐちゃにされたいなら別にいいけどさあ。」

そう言ってその男の子はわたしに拳を振りかざした。

「え、ちょ、ちょっと待ってよ!ポケモンって何のこと!?」

「知らばっくれんな。」

わたしの悲痛な問いかけも空しくあっさりとあしらわれてしまう。男の子から繰り出される拳を枕を身代わりにして間一髪でなんとかかわす、ふう危ない危ない。枕は犠牲となったのだ…なんてナレーションがどこからか飛んできそうだ。


それから30分、どうにかわたしは彼の誤解を解いた。ひたすら部屋の中を逃げ回りながらわたしはそのポケモンとやらの知識は無いに等しいことを解説したのだ、さすがわたしやれば出来る子、がんばる子。彼はトウヤというらしい。わたしはトウヤにお茶を出して、正面に座る。

「俺さあ…いつも通りポケセンで相棒回復してからうっしゃ行くぞってジム挑戦しようとしてたら急に足元に黒い穴空いて、引きずり込まれてきたんだよね。」

礼を言わずにずずっとお茶をすすったトウヤはめちゃくちゃなことを言った。わたしはさっきから引っかかっていたことがあった。"ポケモン"だ。携帯を引っ張り出してきてメールの送信ボックスを確認してみると予想通り、咲が送信したメールがそこにあった。内容はどれどれ…

"神様ぁ〜今度サービスしますから、トウヤ君こっちの世界に連れてきて><!"

…ふざけてるのかあの女子は。サービスってなんのサービスだ。書いてあることが笑っちゃうくらい予想通りだ。十中八九、原因はコレだろう。やりおったなアイツめ…!わたしがトウヤに説明すると、すっごく、すっごーく訝しげな視線を向けられた。

「は?お前ふざけてんの?」

トウヤ君、にこにこしてるけど後ろにお腹真っ黒ですオーラだだ漏れですよ。わざと出しているのだろうけど。うう怖い。

「本気だって…わたしだって最初絶対来るわけ無いって思ってたんだから。」

「あっそ。」

ふーんへーと興味なさげにトウヤがまたお茶をすすった。あ、今むかついた。咲もこんな気持ちだったのかなあなんて思って怒りを鎮めてみる。

「とりあえずお前、呼び出したんだから俺のこと養えよ。」

「ハイハイ………え?」

適当に相槌をなぜ打ったんだ、自分。恨むぞ、自分。でも今恨んだってもう遅い。大魔王トウヤは早速住まいゲットー、とか言って上機嫌にひゅうと口笛を鳴らしたのであった。




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