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放課後お勉強大臣に急かされ過ぎて疲れ切ったわたしと友達の咲は喫茶店でくつろいでいた。 咲は最近出来た仲がいい部類に入る友達だ。ぺらぺらと話す口を咲は止めて、わたしのほうをじっと見た。わたしが咲を見ると、先はゆっくりと口を開いた。 「ねえ、知ってる?」 「なにその豆し●ば的始まり方」 「隠しきれて無いから!」 咲はずずーっとココアをストローで吸い切って、コップをテーブルの上においた。 「最近「神様のメールアドレス」っていうのがあって、そのアドレスにメール送ると願い事を送ると願いが叶うんだって!」 「夢見がちだね咲は…。」 現実逃避している場合じゃない、3つも来てる補修はいいのか補修は。今日さえ補修をはしごしていた咲を待っていたらお前もと補修に引きずり込まれたのに。 「知らないの?これ結構叶うってクラスのTちゃんが言ってたよ?」 「へー…普段お勉強しっかりしてる子もたまには息抜きしたいんじゃないのお。」 こんな会話だけ聞いていたらどっちもどっちだろう。成績の危機と直面して現実逃避する女と脳内に夢と言う単語が一欠片も無い女。わたしはどうでもいいですよと言わんばかりの態度でストローで氷をからんからんとかき混ぜる。 「そこで!ひなたに協力してもらいたいワケ!」 びしっと咲がわたしを指差した。後ろを向いてもお上品な模様の壁があるのみ。 「名指しっすか!」 「当然!」 咲はふんぞり返った。やっぱりわたしでしたか。 「咲携帯もってないんだったね…。」 「これ以上ハマったら大変だからってねー買ってもらえないのー…。」 ぶうと不満げに咲は唇を尖がらす。 「残念ながらわたしも咲のご両親さんと同じ意見かな。」 「裏切りやがったなこんちきしょう!」 咲はご注文がお決まりになりましたら押してくださいボタンを連打した。店員さんが苦笑いを浮かべながら慌てて駆け寄ってくる。ほこり立つからやめていただきたい。あーもーやってらんねー店員さんおかわり下さいと咲が言うと、はいただいまと言って店員さんはまた慌しくぱたぱたと駆け去っていった。この店は内装はいいのにお客(咲とか咲とか咲とか)も店員もどうもマナーが悪くて困るのだ。 「そういうコトだからさ、携帯貸して!」 「えー…どうせメール送るんでしょー?気が引けるなあ…。」 「明日お昼奢るから!」 「よし来たどんと使え。」 今までわたしがかちかちと弄っていた携帯を咲が強奪する。ピピッ。打ちかけだったメールを光の速さ(わたしにはそう見えた)で削除する咲。何すんだと内心思いつつ変な荒波を立てたくないので黙って咲の指の動作を見ている。咲はあっという間にアド入力を完了した。えーと…神様どっとじぇいぴー…そんまま?携帯に向かって先は何かものすごい剣幕でお祈りをしていた。夢見がち恐るべし。咲はまた何か願い事を入力してあっという間に送信を完了させた。送信が完了した瞬間携帯をばきりと言いそうな勢いで閉じ、わたしに突き出した。 「…なにか言うことは?」 「あ、アリガトウゴザイマシタ!」 「宜しい。」 これには軽く怒ったが咲がお礼を棒読みで言ってくれたので許したということにしておく。その瞬間少女漫画の主人公よろしく咲の頬はピンクに染まり目は潤み顎の前で両手の指をがっちり組んで、アテクシの念願の夢が今やっと叶うのね!というようなうっとりとした表情をしていた。 「えーと…なにしてんの咲チャン、ここ喫茶店なんだけど。」 「これでトウヤ!トウヤがこっちの世界に…!」 ウフフウフウフと奇妙な笑い声をあげる咲に店中の視線が釘付けだった。 「トウヤって確か、咲が言ってた新しいポケモンの主人公…でしょ?」 「そうなの!ウフフフ待っててねトウヤ今迎えにいくから!そういうことでひなたじゃあね!」 咲が最近ハマってるのはポケモン。その前は長すぎて名前も覚えていない。見た目は普通、頭脳はオタク。その名は名探偵咲。…名探偵なーんてことはなかった。正真正銘性格以外はただの女子中学生だ。咲はがたっと席を立ち上がってじゃーねー!とか言いながらぶんぶん手を振って去っていった。あんなメール、叶う訳無いと思うんだけどなあ。そう思いながらレジに向かったときようやくわたしは咲に食い逃げされたことに気がついた。 |