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「…ねえ、何してんの?」 ドアを開けると、挙動不審なトウヤが居た。ぐわんぐわんと歩いたり、時たま手を叩いたり。誰かこいつを止めてください。じっと見ているといい加減にわたしに気がついたようで、トウヤはハッと我に返ったような表情になった。 「なっなんなんだよ!」 「いやいやこっちのセリフだからね…?」 バカを連呼し始めるトウヤをまた無言で見る。…覚悟を決めたのかトウヤは口を開いた。 「……帰り方、探してたんだよ。」 「え。」 予想していなかった答え(するつもりも無かったけれど)に、思わず瞬きを繰り返す。珍しく、気まずそうな雰囲気で目を逸らしていたトウヤがぷっと吹き出した。 「アホみたいな顔。」 「どうせアホですよ!」 わたしが笑いながら言うと、つられて笑ったトウヤが真面目な顔になった。この表情も珍しい。…うん。今日はなんだかおかしな日だなと思いながらトウヤの目を見る。 「俺、さ。やっぱりなんていうんだ?その置いて来ちゃった奴らの事とか考えると心配にもなるし。まーあっちでは俺旅してることになってるから、あっちの奴らは気づきすらしないだろうけど。」 そう言ってくしゃりと笑ったトウヤになぜだか酷く胸が傷んだ。じんわりと何か熱いものが、胸の奥底を蝕むような感覚がする。 「うん、そうなんだ。」 その感覚を取り繕うべく何か言葉を発さねば。そう思って吐き出したわたしの言葉は思ったより冷たい温度を発していた。 「…こんな話されても困ったよな。」 もう一回。くしゃりとトウヤが笑った。違う、違うの。そんなことない。そんなつもりでわたしはあんな言葉を、言ったんじゃ。 「そんなことないってば。」 吐き出された言葉。これもまた冷たい温度を発していた。本当にちがうんだよトウヤくん。わたしあなたを傷つけたくない。話してくれて、困る訳がない。これをどう伝えようかわたしの頭は大きなテストと同じ時くらい、精一杯に機能する。 今度はトウヤは返事を返すこと無く、ただ黙って目を伏せていた。彼は帰りたいのだろう。元の自分の居た世界へ。わたしの溶けきらない胸の痛みなんて知らずの内にほっぽって。トウヤくんはやっぱり別の世界の人だから、かえしてあげるべきだ。それがベストなんだけどなあ。なぜだかがんばって動いてる頭はいやだいやだと言っている。なぜでしょう。 |