絶対君制(前/3つ子)


※主人公+三つ子で四つ子設定

わたしはあのクッキーの味が嫌いだ。
しつこくて、ねっとり絡み付いてくる逃がさないと言わんばかりの味とにおい。
丁寧に表面にパステルカラーの着色までしてあって、
とてもそのクッキーはわたしにとって気味が悪いものだった。

それを最近毎日のように昼出す家は紛れも無くマイホーム、私の実家だ。
昼時は兄弟全員キッチンに集まって、丁寧に盛られた気味悪いクッキーを
楽しそうに世間話をしながら食していくのだ。
わたしは本来はそこの輪の中に居なければいけないはずなのに、なぜかそこに居なかった。
そのクッキーを兄弟達が食し終わるまでの間、ずっと私は部屋の隅っこで
本を読んだり、ウパーの世話をしたりと自分一人の時間を過ごしていた。
その時の兄弟の目は忘れられない。
ねっとり絡みつく視線が、普段優しい兄弟から向けられるものとは思えなくて
いつもわたしはウパーを傍において、恐怖心から逃げていた、恐怖心を誤魔化していた。

そんな日々を過ごしていた昼時、兄弟の一人のコーンが声を掛けてきた。
「匿名、そんな隅っこに居てばかりだとカビが生えてしまいますよ。
こちらへ来て、クッキーでも食べましょう。」
コーンは、母親が子供に言い聞かすようにそう言った。
この時わたしはコーンから放たれるクッキーと同じような雰囲気を感じ取った。
表面は優しいのに、蓋を開けてみれば逃げることを許さない。
わたしは初めてクッキーを食べた日のように、断りきれずに頷いた。
キッチンには5つ椅子があるからわたしは一番兄弟達から離れているところに座った。
膝の上にウパーを乗っけて、おいしい紅茶を飲みながら減っていくクッキーを見つめていた。
「このクッキー食べてみろよ!おいしいぜ!」
ポッドがわたしの前にずい、とピンクのクッキーを差し出した。
クッキーのにおいがわたしの嗅覚を奥深くまで刺激して、わたしは思わず吐き気を催した。
わたしはその後何度も兄弟達から進められたけどそのたび頑なに断った。
なんだか、兄弟達の様子がおかしい。
わたしはそう感じ取ったけど、特に兄弟達がクッキーを勧めてくる以外
何かしようとしている様子は見受けられなかったので、気のせいだと自分に思い込ませた。

ことのはじまりはその日の夜のわたしは寝ようと寝支度をしていた時だった。
キッチンに行こうと扉を開けようとしたとき、兄弟達のこんな会話を聞いてしまった。
「あいつ、いつ売り飛ばすんだ?」
ポッドが誰かに問いかけた。
「そうですね…この間13にもなりましたし…。」
コーンは悩んだ様子で答えた。売り飛ばす?何を?
わたしはふいに最近13歳の誕生日を迎えたことを思い出した。
「明日の朝でいいんじゃないかな?今日のうちに手続きして。」
デントは少し間を置いた後、そう言った。手続き…?
わたしは思わず背中に冷や汗が伝った。
「それがいいでしょう。匿名は本当に気味が悪いが、顔の整いは良い。」
その時、コーンがわたしの名前を出したことに何よりも驚いた。
気味が悪いのは今の3人の雰囲気と、クッキーだというのに。
わたしを、売り飛ばす?誰に?なんのために?どうして?
「彼にでも売り飛ばせば、いい値段つきそうだね。」
誰か知らないけど、売り飛ばされるなんて冗談じゃない。
体中から冷や汗が噴出してわたしの心臓は脈を打つ速さが異常に速まっていく。
明日の朝に売り飛ばすなら、時間は無い。今日のうちに逃げ出さなければならない。
わたしは部屋に早く、なおかつ息も歩く音も殺して戻った。

3人にはバレていなかったようで部屋でふうと息を吐く。
がちゃりとドアが開く音がして、わたしの肩がびくりと跳ね上がった。
「匿名、寝付けないのか?」
ポッドだ。恐らくわたしが寝付いた頃に縛り付けて袋にでもつめるつもりなんだろう。
いつもならこの時間わたしは寝ているから、不審に思ったのだろう。
「うん…昨日怖い夢見ちゃって。エヘエヘ。」
わたしが笑って誤魔化すと、ポッドはにかっと笑って
「じゃあオレが匿名が寝るまで見ててやろうか!」と言った。
「やーさすがにこの歳になってまで、恥ずかしいよー。」
「しょうがねーな!ドアの前で勘弁してやるよ。それじゃあおやすみ!」
そう笑って言いながら、ポッドは部屋から出て行った。
廊下を歩く音が聞こえないから、ドアの前にいるに違いない。
わたしは電気をいつもつけている小さな灯りだけつけて、音を立てずにウパーを抱えて窓から降りた。
下は庭になっているから、降りるときにガサリという音がなってしまった。
まずい、とわたしは思った。
家の中からポッドの逃げたぞ!という声や、コーンの追いましょう!という声や
デントのまだ近くにいるはずだよ!という声で、一気に騒がしくなった。

わたしは全速力で走った。
いつもの道がぐるぐると色を変えてわたしを不安の沼に引きずり込もうとしていた。
わたしはそんな道の中をずっとずっと走って行った。
全身の力がもう入らないというくらい走って立ち止まった頃、
やっとわたしはもう3人がわたしを追うことを諦めたんだということを悟った。
何時間もずっと走り続けていた気がする。外はもうすっかり日が落ちきっていた。
いや、正確に言えば日が昇ってきたころまた探し始めるのだろう。
わたしはその前に誰かに助けを求めて、匿ってもらわなければいけない。
でも誰に助けをもとればいいのだろう。わたしは何も分からなかった。


絶対君制
(誰か、助けて、どうすれば。)

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110213 title:bamsenさま




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