きみをまもれるだけの強さが(トウヤ)


「ほんとに行っちゃうの?」

匿名が俺に問いかける。
寂しそうな顔、きっと昨日の夜に泣いたんだろう、赤い瞳。匿名のこんな顔を見るのは匿名が6年前ウォーグルに攫われた時以来で、俺の心が痛むのがイヤでも分かる。でも行かなきゃならない。

「ばーか、そんな不細工な顔すんなよな。」

「な、なに言って…だってトウヤが、急に旅に出るなんて言うからっ……。」

俺は今日、幼い頃からずっと居たこの場所から旅に出る。さっき相棒になったばかりのミジュマルを連れて、ぴかぴかの新しい図鑑と少しの荷物を持って。そして、匿名への淡い恋も抱えながら。後悔なんて無いといえばそれは真っ赤な嘘だけど。

「俺さ、絶対いつかはここに帰って来るから。」

「ほんと?」

「ホントのホント。だから、大人しく待ってろ。」

「待ってる。…10年でも20年でも、何百年でもずっと待ってるからね。」

「長すぎだっつうの。……それじゃ、行ってくるわ。」

「行ってらしゃい、元気でね。」

匿名がくしゃりと笑みを浮かべる。俺は背を向けて、歩き出した。無理矢理笑うな、とか言いたかったけど視界の端に泣き声を押し殺す匿名が映って言葉を飲み込んだ。


きみをまもれるだけの強さが
(ずっとずっと)(欲しかったんだ)

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110317 title:bamsenさま




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