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犬×猿/梅雨の日は組長屋+七夕小説




追記は犬猿七夕小説。

何か若い文次郎がもだもだしてるだけ。
長いです。
気が向いたらどうぞ。

※卒業後捏造
※ナチュラルに室町に七夕
※文次郎視点




「天に願った あまのじゃく」



思い返す最後の夏。
二人の行く末はまだ見えなくて。
でも、希望を持つ事はできなくて。

二人で屋根に座り少しの感傷に浸っていたら、やがてさらさらと降ってきた雨。
祝福が嬉しくて、嬉しくて、くつくつ笑いながら、濡れて張り付く服さえ可笑しくて。
きっと二人とも少し浮かれていた。
法度と言われた未来の話を、たわいもない、ただの戯言をお前と話したんだ。



「手間かけて用意した短冊も、これじゃ天からみえねぇな」

「あー、折角晴れてたのに。あいつらがっかりしてるだろうなー。可哀想に…」

「お前の所為なんじゃねえの。くくっ、可哀想になぁ」

「なんだよ!俺の所為なら、お前も一緒だろ!…お前は俺と一緒に居なくてもいいのかよ…?」

「んな事いってねぇだろ。大体、俺は馬鹿夫婦がどうなろうが、一年が悔しがろうが、どうでもいい」

「情緒のない奴め。団蔵と左吉は報われないな。まあ…俺もお前の事言えないがな…。あいつ等には悪いが、この雨が、嬉しい」

「ふん、浮かれたやつ等ばかりだな。まあ今日は暑かったし、雨は悪くねぇ」

「本当、素直じゃねーの」

「忍びが素直でたまるか。気持ち悪りぃ」

「あーそうですか。じゃあ捻くれたお前の為に気持ち悪りぃ話ししてやる」

「なんだそりゃ」

「…卒業してさ、別々な道に進んでさ、そしたら二度と会えなくなるかも知れないだろ?


「…。ああ、そうだな」

「それでさ、がむしゃらに仕事して、そうだな、五年位たった頃かな忙しくて忘れてた七夕を思い出すんだ」

「お前がか?」

「お前と、俺が、だ。で、今日の事を思い出すんだよ。こうやって二人で話して雨が降ってきたなって」

「……」

「俺思うんだ、きっとその年の七夕も雨が振るって」

「…はん、楽天家め。その頃、俺はとっくに嫁をもらっとるわ」

「うん、そうかも知れない。でも、きっと降るし、俺は降ったら嬉しい」

「……。ふん、その話じゃお前は哀れな独り身だな」

「ああ、きっと、そうだな」

「……」

「きっと降る。今日みたいに」

「……」



その日の夜は更けて。

濡れた前髪を掻き分け合い

未来の事など考えられない程

深く長い、キスをした。







それだけ、だった。
たったそれだけの事。
でも、確り覚えてしまっていた。

あれからちょうど5年。
7月を待たず梅雨どころか桜を見て思い出した自分に呆れすぎて、腹の底から息と、ついでに熱が上がってくる。
本当に必死で働いていたから今までロクに思い返しもしなかったのに…。
…想いは今でも鮮やかに蘇ってしまうと確認してしまって。

いてもたっても居られなかった、なんて表には出さないけれど。

行動に移した。

もうこの世に居ないやもしれない奴を、最後に茶化してやりたくなったから。




そして今夜。行くならあの日の学園ではなく喧嘩の後よく寝転んで星を見た、あの山の中腹の草むら。
わざわざ休みを調節して。
星の降る懐かしい山路を歩く。

…雨、降らねぇじゃねえかバカタレ。
テメエで言っておいてこのざまか。
まったく軽い口ばっかりのどうしようも無いヘタレ家鴨だ。

罵詈雑言を友にして最後の坂道を行く。
相変わらず空は澄んでいる。
今年の織姫と彦星は会えたらしい。
学園の新入生達の願いも、きっと天に届いているのだろう。

今夜は星をみながら久しぶりの休暇をゆっくり過ごそう。
そして日が登る迄には帰路に着こう。

心は…少し以外だがとても晴れやかだ。
少しばかり感傷に浸ってしまった数カ月が嘘の様に。
来てみて良かったのかも知れない。
自分で自分に引導を渡したような格好の家鴨を笑いながら、もう見えて来るだろう例の場所の方向に目を向ける。



ぽつり。
と、ひたいに冷たい感触。



……。



いやいやいや。
星は相変わらずだ。

小便か?
蝉か、カナブンか、蛾か、なんだっていいが、せっかく気分が良いのに妙な演出はやめてほしい。



ぽつり。


……。



…だって晴れてるじゃないか。



ぽつり。


……



ああ、懐かしい場所だ。何も変わっちゃいない。

あれはただの戯言。
あの時の雨だって偶然に決まってる。

たったあれだけの事。
ただ今日雨が降ったら、とお前が言っただけ。


馬鹿か俺は。

なんで来てんだよ。
なんで来たんだよ、馬鹿だろ。

鼻の奥に少しの痛みがある。
喉の奥の重い塊が膨らんでいく。

そんなつもりじゃ無かった。
区切りをつける為だったんだ。
卒業と同時に忘れた涙を思い出すなんて、そんな事望んじゃいない。

笑ってやるだけで充分だった。
天を横目にして残念だったなあきらめろとか、やはりお前の言う事は信用ならんとか。
足を運ぶ必要なんてこれっぽっちもないじゃないか。

なのに何で。

なんで来てんだよ。
どうすんだこれ。

……どうすんだよ馬鹿!



お前の望み通り降り出した天気雨。
濡れて張り付いていく服には気付けない。
お互いを見つめたまま俺達は固まってしまって。

動けないでいる馬鹿達の上の星空を、久しぶりで反応が遅れた雨雲が厚く覆っていくらしい。
ああ、土砂降りになるな、と、うわの空に思った。

…あの日の浮かれた俺達より、願いを聞き届けたとばかりに見下げているだろう夫婦より、今ここに居る事に鉄槌が下されるべきだと言う事はわかっている。

雨脚は予想通り酷くなり、打ち付ける雨粒が少しづつ俺の思考を流し削いでゆく。



…てめえ、アホな面して見てねえで今すぐ俺の前から消えろよ早く…っ



なあ
(ああ)
体が動き出す前に
(誰よりも何よりも)
俺の前から
(心の底から焦がれてやまない)
早く
(お前に)
消えて
(触れたい)



きっと、幼かった日より、深く長く、熱く、愛しい、





糞、





畜生、





何だってんだ…っ、










「…っこの、バカタレ…っ…」



















五年越しの濡れた布越しの抱擁は


夏のはじまりの匂いと、


舌が焼ける程に甘い


あの日と同じ、





雨の味がした。












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