なんでそんな目をして見ているの?


問えば困ったような顔をしたので、思わず笑ってしまった。
知ってて訊く私も、大概たちが悪いのだが。

「お前は、本当に」

呆れた風に言いながらも、まだそんな色で私を見る。
はぐらかすように視線を逸らせば、ヴォルフラムは私の腕を掴んだ。

「なに?」
「何、じゃない」

腕は掴まれたまま、ソファの上でにじり寄られる。近くなる距離に私の耳は、ヴォルフラムの呼吸の音を拾った。

「駄目、ヴォルフラム」
「じゃあ何で一人でぼくの部屋に来た」

それは、決別を告げる為。

まっすぐとおもいを伝えてくる彼は、私には眩しすぎる。全然相応しくない。
なのに近付きすぎてしまったから。
もう、この苦しさから私は開放されたかった。

「――放して」
「放さない」
「ヴォルフ」
「放したら、もうお前は戻ってこないんだろう」

目の前で、揺らぐ瞳。そのまま心を写しているようだ。
ああ、息が詰まる。見ていられない。
なのに、振り払えない。

ここで言わなきゃ、いけないんだ。
今を逃しては、自分が駄目になる。

唇をこれでもかと噛み締めてから、口を開いた。

「私じゃ駄目なのよ、あなたは。だから、さよ」

続くはずの音は発音されないまま吸い取られてしまった。

防衛線を張っていたはずなのに、それを軽々と飛び越えて捕まえられてしまった。
重なった唇の温度がとても熱くて、熱くて。それに、うかされてしまいそう。

駄目だ、と、決めたのに。


「勝手な事言うな」

少しだけ伏せたまつげの奥で、エメラルドグリーンが私を捕える。

決めたのに。

「お前がそう言うなら、駄目にでも何にでもなってやる」


ああ、もう。


まぶしい光を、見つめては慣れずに目を細めていた。焦がれ、燃え尽きてしまいそうになるのが怖かった。

だから、と思ったのに。
本当に欲しかったのは、彼のこの言葉だと知ってしまって。



『サヨナラ』

私の、決意。弱かったそれよ。


もう焦がれたって、かまわないの。



END




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