いつも同じ間隔で二度鳴らす、几帳面なノック音。
読みかけの本をおいて私は立ち上がった。

「グウェン」

深夜の訪問は、いつもの事。
顔を上げれば少しだけ微笑む彼に揺らぐのは、複雑な心境というやつで。

「ああ。――入れてくれないか」

いつもはそんな事言わずに入ってくるのだが、私が扉の前から退かないからだろう、彼はそう言った。
黙り込んでいると名前を呼ばれる。困ったような、響きで。

「たまにはまっすぐ自分の部屋に戻って休んだら?」

仕事終わり、時間が空くと私の所に来て何でもない話をしては帰っていく。
恋人でもない私の所に、何でこうしていつも来るのだと前から疑問に思ってはいた。
疲れているのだから、早く休めばいいものを。

「迷惑だったか?」
「迷惑だったらこんな真夜中に付き合ってないわよ」

言えばほら、またそんな表情。いつもはあんまり、笑わないくせに。

「だったらいつも通り、私の息抜きに付き合ってくれ」
「息抜き、ねえ」

溜息混じりに言うと、グウェンダルは少し目を丸くする。
何だ、その顔は。思って見上げると、呆れたような目が向けられる。

「なんだ、わかってなかったのか」
「何がよ」
「お前の所だから、来るんだが」


いつも忙しくしている彼はなんで此処なんだと、なんで私なんだと。

訊けずにわだかまっていた謎は、一瞬で溶けて消える。


「・・・それ、どういう、意味よ」

もうわかってしまったにも関わらず、思わず再確認。グウェンのこぼす苦笑いが、憎らしくて、愛おしい。

「そういう意味だ」
「わかりにくいのよ」
「よく言われる」

大きな手がすっと伸びてきたかと思うと次には広い胸の中にいた。
それはいつも此処に来る彼の、初めての行動。

ああ、もっと早くにそうしていてよ

「いつもみたいに言ってはくれないのか」

あまりによく来るものだから、いつしか私はその言葉を使っていた。

多分、本当は気付いていた。
そう言い始めたその頃から、私は。


『おかえりなさい』


帰ってくるのを知っていて、私は言っていたのだと。



END




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