その場が落ち着いた所を見計らって、薄着の元就を着替えさせるために隣の寝室へ移動した。

いくら男の子といえどもみんなが見ている中で着替えるのは気がひけるだろう。元就も異存はないようで大人しく付いてきた。


閉めた障子越しでも朝日は眩しいくらいで電気を点けなくても充分明るい。


「寒くない?ヒーターつけようか?」


黙ったままの元就に苦笑してヒーターの電源を押した。ブゥンと鈍い音が昇る。

まだ室内が温まるには時間がかかりそうだったので温風が吹き出す前まで移動して、飼い主組で決めた服を着せていく。その間も元就は静かで、着替えは滞りなく終了した。


「はい、出来た」


ぽんと肩を叩いて、みんなのいるリビングへ繋がる襖を開けようと手を伸ばす。

しかし手がかかるよりも先に元就の小さな手が私の裾を引いて動きを止めた。


「…あき」

「ん?なあに?」


口元に手を添えて内緒話を促す動作に膝を折って応じる。こしょこしょ告げられた内容に私はにっこり微笑んだ。










「元就くん着替え完了しましたー」

「おー、似合ってる似合ってる」


リビングに戻った私たちを迎えたのはいつもと変わらない和やかな雰囲気。緊張気味だった元就の手を繋いで一緒に入る。

きりりとした涼しい目元の元就にはカッターシャツとベスト、まあいわゆる優等生ルックをさせてみたんだけど、これがまたビックリするほど似合っている。

元就には佐助や幸村のように元来の姿を現す部分が髪だけに現れたのか、身体的な特徴は見当たらず着替えもスムーズに済んだのだ。


「…む」


飛び交う賛辞の声を背に真っ直ぐ向かう先はキャラメルブラウンの尻尾をくゆらせていた佐助の元。ずんずん向かってくる元就に仔狐はびくりと肩を震わせた。

逃げはしないものの、あわあわと元就の動向を見つめるしか出来ないようだ。

視線はきっちり佐助を捉えたまま目の前で歩みを止める元就。揺らがないその瞳に佐助の三角の大きな耳は前に伏せ、不安な心情を物語っていた。


「…これ」

「…へっ」


差し出されたのは濡れたタオル。恐る恐る受け取るものの、佐助は何故そんなものを渡されたのかよく分からないようだ。

疑問符を頭の上にたくさん並べて「え、えっと…?」と小首を傾げた。


「…手、たたいてわるかった。…冷やせ」


それだけ告げると踵を返し、足早に私の所へ戻ってきた。その顔は不機嫌そうで、唇なんかもインコのくちばしみたいに小さく突き出されている。

でも真っ赤な頬がただの照れ隠しというのを証明していて。

笑みを零した私に一瞥を投げかけたが特に何も言わず、そのまま私の後ろに背中合わせで三角座りをしてしまった。


「あ!ありがともとなり!おれさま、だいじょぶ、だよ!」


濡れタオルを握ってお礼を述べる佐助。元就はやっぱり沈黙を守ったままだったけれど、ちらりと見た頭が小さく縦に揺れたから、もう大丈夫かな。

元親くんも政宗くんも、幸村に背中をよじ登られている小十郎さんも安心したように小さく頷いていた。



穏やかな空気がリビングを優しく満たしていく。



また、今まで以上に楽しい日々が始まりそうです。


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