「ゼロス様ッ」
「なんだよハニー。オレ様に愛の告白でもしに来たのかぁ?」
「違います」


真顔できっぱりそう断言すればゼロス様はガクッと肩を落としました。
まったく、そんな演技が私に効くと思っているのですか?


「冗談言ってないでください。なんであんな事言ったんですか!」
「なんだよー。本当のことだろー」
「私は認めていません!お父様達が勝手に決めたことです!」


貴族同士ではよくあることです。
私だって貴族の娘として、お父様やお家の為にどこへでも嫁ぐ覚悟は決めていました。
しかし、相手はあのゼロス・ワイルダーなのです。
女性に声をかければ常に何かしらの貢物を献上されるという噂の!
そんな方と幼馴染と言うだけでただでさえ周りの目線(女性限定)が痛いのに、その上婚約しているなどということが世間に知れ渡ったならば…
考えただけでも恐ろしいです。


「リーズ公爵だってお前のためを思ってこの縁談を組んだんだろ?いい加減諦めろよ」


そうです。
お父様達は死に際に一人きりになってしまう私を思って、ゼロス様に懇願したのだそうです。
娘を頼む、と…
それを引き受けて婚約してくださったゼロス様やお父様達に私は感謝しなければならないはずなのです。


「私は!」


それでも、私は…


「私は、嘘つきが嫌いなんです…」


昔からそうだったではないですか。
あなたなら、知っているはずではないですか…


「酷いぜハニー。オレ様ってば昔っからハニーのこと大好きだったのによぉ」
「そういうことは、さっきのお嬢様方に言って差し上げてください!」


からかわれるのは、もううんざりなんです…
踵を返してゼロス様から逃げ出しました。
今度は引き留められませんでした。


「でひゃひゃひゃひゃ…嫌われたもんだねぇ」


ハニー
一度も名前を呼んでくれなかったくせに…


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