クリア後


最近あたしはイライラしている。
マナの研究が思うように進んでいないことも原因の一つだ。思うようにというか、全く進んでいないと言ってもいい。完全に壁にぶち当たっている。
進まない研究にイライラして、イライラしているせいでさらに考えが空回りしている。
じゃあ、ストレス発散でもすればいいのでは?って思うかもしれないけど、ここでは旅をしていた時のように魔物を蹴散らすこともできない。
ああ!ここにおっさんかガキんちょがいればファイヤーボールを2,3発叩きこんですっきりできるのに!
少しでもリフレッシュしようと思って外に出たけど、あたしを最大にイラつかせている問題は大変残念なことに自立式二足歩行をすることができるときたもので…

「モルディオししょー!」
「……」

噂をしたら影、とはよく言ったもので。行き詰っている研究の数倍あたしをイラつかせる自立式二足歩行器が目の前に立ちふさがった。

「ししょー!おはようございます!ってもう午後でしたね!こんにちは!聞いてくださいよーオレ昨日夢の中でピーンってすっげー理論思いついちゃって!これは忘れちゃなんねぇ!って夜中に飛び起きて近くにあったものに適当に理論を書き残したんすよ!それで安心して寝たんですけど朝起きてもう、笑っちゃって、何に理論書いてたと思います?なんとなんとーじゃっじゃじゃーん洗い立てのオレの勝負ぱんt…」
「エンシェントカタストロフィ!」

視界に入った不快なものを焼き捨てると、バカは「ああああ!オレの素晴らしいかもしれない理論が!」とか叫びながら残骸をかき集めている。ホント、バカっぽい。
もう説明は必要ないわよね?このバカがあたしを最近イラつかせている自立式二足歩行器こと、共同でマナを研究している魔導士のバカ。名前?知らないわよ。こんなバカはバカで十分でしょ。
とにかくこのバカはあたしをししょーとふざけた呼び方をしてことあるごとにまとわりついてくる。

「ししょー酷いですよ…いくら研究がうまくいってないからって、オレに当たらないでくださいよ」
「仮に研究が絶好調だったとしてもあたしはあんたに術を使ったから安心しなさい」
「ば、バイオレンス!ししょーの愛が痛い!」
「バカっぽい」
「はい!バカっぽいいただきました!ありがとうございます!」

すかさず詠唱を始めるとバカはすぐに謝ってきた。まあこれ以上バカに術を使ってもマナの無駄遣いになるだけね。

「ししょーはどこ行くんですか?あ、気分転換に散歩ですね!じゃあちょっと足を延ばしてハルルまで行ってみません?ねこにんカフェってお店ができたらしいんですよ!ありじこくにん?なんすかなんすかちょっとバカっぽい必殺仕事人の仲間ですか?あ、いまのバカっぽいの言い方ししょーっぽくありませんでした?って、すみませんすみません秘奥義勘弁してくださいもうHP赤いんですよ。グミ食べますね。モグモグモグモグ…くーうまい!これおやつにちょうどいいですよねーまあおやつにするには単価が高すぎますけど…あれ?ししょーなんか気まずそうな顔してません?まあいいや!ねこにんカフェですよねこにんカフェ!ししょーが好きそうなねこがいっぱいのカフェですよ!行きましょうよー」

このバカはとにかくうるさい。おっさんも目を丸くするくらいよくしゃべる。
黙らせるにはさっきのように物理的に黙らせるのが一番だけど、それも面倒で最近は聞き流している。話すだけ話したら満足して嵐のように去っていくからだ。でも今日は聞き流せないことを言っていたわね。

「はあ?なんであたしがあんたとカフェに行かないといけないのよ」
「なんでって、もちろんデートっすよデート!オレたちそろそろ付き合って一か月なのにまだデートもしてないんですよ!?」
「…あんたまだ夢の中なんじゃないの?」
「さっきの秘奥義めちゃくちゃ痛かったからそれはないと思いますよ?」

それかあたしがまだ寝てるのか。いや、こんなこと夢でも不愉快。絶対嫌。断固拒否。

「あたしとあんたが付き合ってるなんて、悪夢以外のなにものでもないでしょ」
「………え」

バカは目を丸くしてしばらく固まっていた。これ以上ここにいても無駄と判断して、あたしは予定を変更して研究所兼自宅に戻ることにする。変なバカには絡まれたけど、秘奥義を食らわせて少しすっきりしたような気がする。バカと鋏は使いようってやつね。なんだか研究もうまくいきそうだ。

「ちょちょちょちょ、ちょっとまってよリタ!」

ぐいっと腕を掴まれてその場に引き留められた。

「え、何の冗談?オレたち付き合ってるんだよね?だって付き合ってって言ったら。「ああ、うん」って言ってくれたよね!?」
「そんなこと口が裂けても言わないわよ」
「だーかーらー言ったんだってば!間違いなく!一か月前オレが告白したときに!」
「知らないわよ!キモッ!そもそもあんたの名前知らないし!」
「えええええ!!!???」

今度こそ固まったバカを振り切ってあたしは家に走った。何だったのあいつ!本当に腹立つ!あたしがあんなバカと付き合うなんて言うわけないっつーの!





「モルディオししょー、オレ、ししょーのこと好きだよ」
「…………へえ」
「だから、ししょー、オレと付き合ってください!」
「………」
「ししょー?」
「…え?あーうん」
「ホント!?」
「は?」
「ホントだね!オレ聞いたからね!わーいやったー!」
「…なにあのバカ。何か言ってたのかしら?」




とある研究バカとただのバカの悲劇

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