人通りの殆どない裏路地からぼんやりと空を眺めた。
鉛色の空は今にも泣き出しそう。
周りに立ち並ぶ家々によって閉じ込められた四角い空。
まるで自分まで閉じ込められたような錯覚に陥る。

「気持ち悪…」
「そうだな。お前の顔が」
「ナチュラルに失礼だな」
「お前の存在のほうがこの世界に対して失礼でさァ」
「私は何者なんだよ」
「なまもの」
「生物じゃねーよ。せいぶつって読まないようにわざわざ平仮名使いやがって」

独り言のつもりだったのによりによって沖田さんに聞かれるなんてどれだけ運がないんだ私。
というかいつからいたんだ。
気配に全く気づけないなんて、さらに悲しくなったぞコノヤロー。

「大丈夫ですかィ?もとからひどい顔がますますグチャグチャでさァ。まるで福笑いでもしたかのように」

あーはいはい。
悪かったですね生まれた時からこの顔ですよ。

「沖田さんには関係ないですよ。珍しくアンニュイな気分なんです。ほっといて下さい」

チャキ…

「この頃耳が急に聞こえなくなっていけねーや。今なんて言ったんですかィ?」
「…沖田さんこれは脅しですか?」

私の首筋に突きつけられているのは鈍く光る刀。
おそらく切れ味は抜群。

「脅迫なんてしてないですぜィ?ただ返答によってはお前の頭が胴体と永遠の別れを告げるだけでさァ」

それを世間一般では脅しと言うんですよ…
こんな状況にも慣れてしまったことで改めて自分の適応能力の高さを思い知る。
以前は生で刀すら見たことがなかったのに今はどうだろう。
自分の足元に転がっているモノをぼんやり眺めた。

「もし…」

考えることは止めよう。
私はずっとこの世界で生きていくと決めたのだから。
悲しみも寂しさも、この世界では邪魔だから捨ててしまおう。
そう決めた、つもりだった。

「もし、ここに来なければ人を殺すことも無かったんだろうなって」

死体に突き刺したままだった刀を引き抜けば勢いよく血が溢れ出す。
死体の服で血を拭い、鞘へ収める。
そしていつの間にか刀を下ろしていた沖田さんと向き合った。

「それだけですよ」
「後悔してんですかィ?」

新撰組に入ったことを人を殺すことを
暗にそう言われている気がした。

「まさか」

フッと自嘲的な笑みがこぼれる。

「新撰組に入らなかったらとっくに死んでますよ」

それにどちらにしても変わらない。
ただの女子高生が身一つで生きていけるほどこの世界は甘くない。
結局私は刀を取るしかないのだ。
この世界に来てしまったのだから。

「後悔なんてしません」

今までも、これからも
そんな意味を込めて沖田さんを見上げるとコツリと頭を小突かれた。

「何するんですか…」
「今みたいな顔でいなせェ」
「はぁ?」
「そっちのがまだましでさァ」

自分が言いたいことを言って満足したのか沖田さんは大通りの方へ戻って行く。

「ちょっ、沖田さん!」
「帰るぜィ。ドラマの再放送が始まっちまいまさァ」

沖田さんあのドラマ全部録画してたじゃないですか…
それも私が見るのを楽しみにしていた別のビデオの上に。

「帰る、か…」

今の私にも帰る場所がある。
それだけでぐだぐだ考えていた事が全てどうでもよくなった気がした。


「名前。置いてくぜィ?」
「あ、待ってください!」



帰る場所
待ってるのがゴリラやマヨオタやサド王子でも、新撰組が私の今帰る場所



おまけ

「沖田さん」
「なんでィ」
「ありがとうございます」
「…別になにもしてないですぜィ」
「いいんです私の自己満なんで」
「感謝の気持ちがあるなら受け取ってやりまさァ。土方暗殺して来い」
「無茶言わないでください!私が副長に殺されますよ!」
「じゃあお前は今日から一週間俺の奴隷でさァ」
「じゃあって何!?じゃあで奴隷に繋がる意味がわからないよ!?」

遠い世界にいるお父さん、お母さん。
やっぱりこの人達と上手くやっていける自身がありません



back
-------------------------------------------------------*

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -