右手に地図を、左手に紙袋を、胸には希望を持ち私はひたすら前へと進む。例えこの先に待っているのがなんであれ足を止めることは許されない。

「だって、迷子だからね!出口どこだチクショー!」

肩で息をしながら叫んだ。叫ばないとやってられない。なんで学園内で迷子?つい数ヶ月前まで通ってた学園内でどうして私は迷子になってるの?確かに近道しようと思って地図の道から外れたけど…。あ、原因それだ!絶対にそれだ!私の馬鹿!
そんなわけで私は早乙女学園内にある森で迷子になってしまった。腕時計を確認すると本来ならもうとっくに寮に帰ってる筈だった時間。日も落ち始めている。
時々吹き抜ける風に身震いした。薄手のカーディガンしか羽織っていないことを心の底から後悔する。凄く、寒いです。それもそうだ。もう季節は秋から冬へと変わりかけている。なんでもっと温かい服を着てこなかったんだろ…。寒さを自覚すると体が急に動かなくなってきた。あ、これやばいかもしれない。

「早乙女学園の敷地内で卒業生の凍死体発見、なーんて」

『芽の出ない新人アイドルの悲劇!?』とか見出しが付くのかな?ハハハ。笑えない。慣れないことしたからこんなことになるのかな…。でも悪いことしてるわけじゃないもの。バチが当たるようなこと何もしてないです音楽の女神様。
私はただ、大切な人の笑顔が見たいだけなんです。

「名前!」

どうしよう幻聴が聞こえる。おかしいな寒いといえば寒いけど…幻聴聞こえるには早くない?雪が降って、洞窟で暖をとって、なんだか眠くなってきたよクップル…ってのがあってから幻聴・幻覚のコンボが決まるんじゃないの?

「名前!!」

ああでも最近は超展開ってのも増えてるらしいからね。そういえば私も体験してるじゃない超展開。サタンとか女神とか。それらの試練を乗り越えての今だったわ。だからいろいろな段階を吹っ飛ばしてセシルの幻覚が見えても無問題。モーマンタイ。

「ああ、こんなに冷え切って…」
「セシルあったかーい」

ぎゅうっと抱きしめられたひと肌が心地よくて私もセシルの背中に腕をまわした。ああ、生き返る…。本当にセシルあったかい。…ん?

「って、ええ!?セシル?本物?」
「YES。迎えに来ました、My princess」

セシルは私を抱きしめたまま耳元でささやいた。

「な、なんでここが…私何も言わないで出てきたのに…」
「アナタはワタシの魂の恋人。アナタに危険が迫っているのわかります」

とても心配しました。そういってセシルは私をさらに強く抱きしめる。さっきまで冷え切っていたのが嘘のように全身が熱くなった。わわわ私、いま、抱きつかれて…私も腕まわして…

「名前こそ、どうしてこんなところに?」
「え、あ、えっと…」

もちろん何の理由もなく遭難していたわけじゃない。遭難は不可抗力だったけど…。でも理由は今は言えない。困って視線をあちこちにやっているとセシルは少し悲しそうな顔をして私を放した。

「ワタシに言えないこと?」
「違うよ!」

そんな顔させたかったんじゃない。私が見たかったのは…ああ、もう!いいや!サプライズはなし!もう時間も遅いし、早く帰らないと今日が終わっちゃう。

「…これ!探してたの」

紙袋をセシルに押しつける。本当は家に帰ってからちゃんとラッピングするつもりだったけど、仕方がない。

「これは…」
「アグナパレスでは大切な人に花を贈るんでしょ?」

紙袋の中身は森で摘んだ花で作ったブーケ。花屋さんで買ってもよかったんだけど、どうしても自分で見つけた花を贈りたかった。

「お誕生日おめでとう。セシル」

セシルの手からブーケを取りあげ、そっと頭の上に乗せる。冬になりかけた今、なかなか綺麗な花が見つからなくてブーケと言うより小さなクラウンのようになっちゃったけど、セシルは王子様だしちょうどよかったかも。

「どう、かな…」

セシルに反応がなくて少し不安になった。もしかして、気に入らなかったのかな…。やっぱり王子様への誕生日プレゼントには貧相過ぎた?

「あの、ごめんね?こんなのがプレゼントで…」
「NON!とてもステキです!」

セシルに勢いよく抱きしめられた。ちょっと、急には照れるからっ

「こんなココロのこもった贈り物は初めて。ありがとう、名前」
額にそっとキスをしてセシルはとても幸せそうに微笑んだ。くそう、凄くかっこいい。サプライズで驚かせようと思っていたのに私ばかり動揺している気がする。それが悔しくてセシルを力いっぱい抱きしめた。




花冠を君に
(帰ったら一緒にケーキをたべよう。寝る前に私からキスしたら少しは動揺してくれるかな?)

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