『お前、俺たちと組もうぜ!』

今来栖が言ったことをもう一度脳内再生。意味を考えてみる。…わからない。無理だ。私頭悪いから無理。こんな急展開ついていけない。ああでも考えないと…!俺たちってことは来栖と七海さんはパートナーなんだよね。その中に私も入る?私と来栖は二人ともアイドル志望だからつまり、えっと…

「ユニットってこと…?」
「そ!いい考えだろ?」

どこが!と叫びそうになったのを私はぐっと堪えた。確かにユニットを組めば私も卒業オーディションに出られる。でもアイドル2人に作曲家1人じゃ作曲家の負担がかなり大きくなってしまう。

「気持ちは嬉しいけど、七海さんの負担が…」
「素敵です!!」
「え!?」
「私、翔くんと水瀬さんの曲作りたいです!」

七海さんは目をキラキラさせて私の手を取った。

「春歌は文句ないみたいだぜ?」
「はい!文句なんてありません!あ、でもユニットで卒業オーディションに出れるんでしょうか?」

七海さんありがとう!そうだよ。卒業オーディションでユニットなんて聞いたことがない。

「無理なんじゃないかな?やっぱり私しばらく一人で…」
「面白そうな話をしていますネー!」
「きゃあ!」

バリーンと窓を突き破って黒い影が教室に飛び込んできた。びびびびびっくりした…。心臓止まるかと思った。影の正体はもちろん早乙女先生。3階の教室に飛び込んで来れる人なんて世界中探してもこの人くらいしかいない。

「YOU達、ユニットで卒業オーディションに出たいのデスカー?」
「「はい!!」」

早乙女先生の問いかけに来栖と七海さんが元気よく答えた。って待って!私まだユニット組むとは言ってない!

「わかりマシター。特別にユニットでの参加を許可シマース!明日から3人で頑張るといいデース!」
「ありがとうございます学園長先生!」
「さっすが学園長!話がわかるぜ!」
「HAHAHA。それほどでもアリマース!」

ではさらばデースと早乙女先生はまた窓から出ていってしまった。急展開すぎてそろそろ脳がオーバーヒートを起こしそう。

「学園長先生の許可が貰えてよかったです。あ、さっそくお二人に合ったメロディが浮かんできました!」

早い!メロディ浮かぶの早いです七海さん!
ちょっと待ってよ、本当に待って…。当事者の私がまだ何も返事をしていないのにどうして話が進んでいくの?

「私今日は五線譜を忘れてしまったので寮に戻って今浮かんだメロディを譜面に起こしますね。それではまた明日。」

唖然としているうちに七海さんまで帰ってしまった。教室に残っているのは私と来栖だけ。
まだ混乱している。来栖と七海さんに相談、というか愚痴を言うだけのつもりだった。それがどういうわけかこんなことになって混乱するなって言う方が無理な話だ。早乙女先生が一度決めたことは変えられない。だからきっと私は来栖とユニットを組むしかない。私のことなのに、私の将来なのに、私の意思を挟むことすら許されずに。

「お前もそろそろ帰れ。あんまり遅くなると危ねぇし」
「来栖には、関係ない…」
「なぁに拗ねてんだよ。関係無くねぇだろ?これから一緒に頑張るんだからさ」

子供の癇癪をあやすように来栖は私の頭をぐしゃぐしゃと掻き撫でた。その行為が腹立たしくて私は来栖の手を払う。

「…どうして私と組むなんて言ったの」

同情しているの?可哀想だって思ってるの?そんなの私はいらないよ。

「どうしてって、お前の歌好きだなーって思ったから」
「私の、歌…?」

予想外の答えに私は驚いた。歌って、だって私自己紹介で歌えなくて。この学園に来てから歌ったのはさっき教室で歌っただけで…

「聞いてたの…?」
「おう」
「でも、私より上手い人はたくさんいるよ」
「上手い下手じゃねーよ!」

来栖が少し怒ったように言った。

「確かにお前より歌が上手い奴はたくさんいる。でも俺は歌が上手いからお前と組みたいって思ったんじゃない。お前の歌を聞いて、お前と一緒に歌いたいって思ったからお前と組みたいんだよ!わかれバカ!」
「わ、わかるかバカ!」

思わず思ったまま叫んでしまった。来栖の顔が少し赤い。きっと私も赤いだろう、だって顔が熱い。お互い黙ってしまい、沈黙が続いた。

「帰んぞ。…送る。お前春歌よりも危なっかしい」
「…ありがとう」

差し出された手を取って私たちは教室を出た。
流されている自覚はある。
でもこの人となら流されてもいいなんて思うのは、私の歌を褒めてくれたからなのか、それとも絆されてしまったのか。
どちらにせよ悪い気はしなかった。



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