「どうしよう…」

放課後。私はホームルーム前と同じく頭を抱えていた。この学園に来た理由とか、彼女のこととか、精神的な問題について悩むのはもうやめた。もともと深く考えてもろくなことがないのは自分が一番よくわかっている。でもいま頭を抱えているのは全く違う問題だ。
結論だけ言えば、あぶれた。
なんでも作曲家コースの生徒で入学式の直前に入学を取り消した生徒がいたらしい。そのせいでこのクラスの生徒数は奇数であり、アイドルコースの生徒が一人余ることになってしまった。そして余ったのは自己紹介も満足にできず、時間の問題で特技も披露出来なかった生徒、つまり私。
事前にわかってたならどうにか出来なかったの!?って思うけど…。一度落とした人を合格させると学校の名前に傷が付くし、かといって誰か合格を取り消すわけにもいかなかったらしい。

「教師が言うことじゃねーが、全ての生徒が3月までいれるわけじゃねぇ。パートナーが退学しちまう奴も山ほどいる。普段からしっかり練習しとけばパートナーがいなくなった奴とペアを組み直すこともできる。大変だとは思うが、最初からあきらめるなよ?」

日向先生は途方に暮れる私をそう言って励ましてくたけど、何の慰めにもならない。パートナーがいなくなるってことは誰かが夢を諦めるってことだ。それを待つなんて、そんなことしたくない。それに作曲家の子だって同じ夢を目指して頑張っていたパートナーをそう簡単に切り替え出来るとは思えない。
でもパートナーなしでこの学園で過ごすことは簡単なことじゃないこともわかってる。定期試験も課題もパートナーと一緒に取り組むのが基本だ。パートナーがいないという事はそれだけで重いハンデを背負う事になる。

「でも私にはどうしようもないよ…こんなの…」

いくら考えてもいい案は出てこなかった。どうしたらいいのかわからなくて不安に押し潰されそうになる。
ああ、そう言えば早乙女学園へ入るために必死だった時もこんなことがあったな…。あの時は彼女が不安なんて歌でぶっ飛ばせる!ってわけのわからない解決方を教えられたけど…

「〜♪」

試しに歌って見ても不安は消えなかった。むしろこんな歌唱力でやっていけるのかと不安がさらに増した気さえする。だって自己紹介のとき、周りの人は私よりずっと上手かった。逆効果だ…。私の歌じゃ不安は消せない。
ますます気持ちが沈んで私は机に突っ伏した。

「まだ残ってたのか?」

顔を上げると教室の入り口に来栖と可愛い女の子が立っていた。

「来栖と…七海さんだっけ?」
「あ!はい!七海春歌です!どうぞよろしくお願いします!」

七海さんはビシッと90度頭を下げた。すっごく嬉しそうだ。名前覚えてただけなのにな…

「どうしたんだよ。早く帰らないと暗くなるぜ?」

少し心配そうな顔をして来栖は私の隣の机に腰掛け、七海さんは私の前の席に座った。心配してくれるのは嬉しいけど、今は放っておいて欲しかったなぁ…なんて。そんな風に思ってしまう自分が嫌になる。

「考え事か?」
「ちょっと、ね…」

無理やり笑顔をつくると来栖はふうんと気の無い返事。興味ないなら最初から聞かなければいいのに…。

「話してみれば?」
「へ?」
「なんか悩んでるんだろ?」

お前わかりやすいと来栖は言った。うん、昔からよく言われます。

「でも、来栖達には関係ないし…」
「いいから話してみろって!この俺様が聞いてやる」
「俺様って…」

そう言えば来栖、自分のこと王子って呼べとか言ってたような…。王子様キャラじゃないと思うんだけど…。

「誰かに話してみたらすんなり解決策が見つかることもありますよ?」

だから話してみてくださいと七海さんは微笑んだ。そう簡単に解決策が見つかるとは思えないけど、話せば少しは気が楽になるかもしれない。

「…パートナーが、みつからなくて」

ぽつぽつとホームルームが終わってから考えていたことを話し始めると来栖も七海さんも真剣に聞いてくれた。

「と、そんなわけです」

話し終えると窓の外はすっかり暗くなっていた。そんなに長く話していたつもりはなかったんだけどな…

「ごめんなさい、つき合わせちゃって」
「そんな!私こそ、解決策が見つかるなんて簡単に言ってしまって…」
「ううん、聞いてくれてありがとう。少し、楽になった」

さっきよりは自然に笑顔をつくることができた。楽になったのは本当。一人で貯めこんでいたときよりもずっと心が軽かった。

「来栖もありがとう。また助けられちゃった」

自己紹介のときと今、一日に2度も助けられた。ちゃんとお礼を言わないとと思い来栖の方を向けば、来栖は腕を組んで何か考え込んでいた。

「来栖…?」
「よし!決めた!」

来栖は急に立ち上がると私の両肩をガシリと掴んだ。ちょ、ちょっと、痛い…。

「急になに、放して…」



「お前、俺達と組もうぜ!」




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