「というわけで、一十木くん…じゃなくて、音也とは小学校が一緒だったの」
「へぇー、そんな偶然ってあるのね」
「…ソウダネ」
「なんで片言?」

渋谷さんが冷静に突っ込みを入れた。気にしないでほしい。むしろこの話題から今すぐに離れてほしい!切実に!

「だが会っていない期間は3年程度だろう。普通もっと早く気づくのではないか?」
「あー、その、雰囲気が変わってたから気がつかなかったんだよね」

雰囲気って具体的にどこの事なのかな?ん?髪型?髪型なの?音也にとって水瀬アキ=おかっぱって方程式でも出来上がっていたのかな?

「えっと、アキすっごく綺麗になってたからさ!」
「…それはどーも」

私が睨んでいることに気がついたからか、音也は慌てて付け足した。こんなに褒め言葉を嬉しく感じなかったのは初めてだ。

「でも偶然この学園で再会なんて、素敵ですねぇ。なにか運命的なものを感じませんか?」

四ノ宮さんのキラキラした視線を向けてくる。音也が思い出していないのをいいことにシラを切ろうとしてた私にその視線は痛いです四ノ宮さん。

「私と音也の話はもういいよ。ね?ケーキとか食べよ?」

居心地が悪くて話を逸らそうとするがみんなまだ興味津々といった顔をしている。もう本当に勘弁してください。言わないって約束はしたけど音也はどこか抜けてるからついポロッと言っちゃいそうで気が気じゃないんです!

「僕もっと2人の小さいときの話聞きたいなぁ…翔ちゃんもそう思うでしょう?」
「え、いや…」

四ノ宮さんが来栖に同意を求めるけど、来栖はどこか気の抜けた返事をするだけだった。そういえばさっきから来栖静かだな…。もしかして具合が悪いとか?

「来栖どうかしたの?」
「あー、いや…。その、なんつーか…」

私が顔を覗き込むと来栖はあからさまに視線を逸らして言葉を濁した。…なに?私もしかして何かやらかした?

「…ずるいです」
「え?」

来栖に何かあったのかもう一度聞こうとすると、七海さんがポツリと呟いた。

「一十木くんだけずるいです!」

バシンと机を叩いて七海さんが立ちあがった。び、びっくりした…!音也がずるい?なにが?誕生日だから?

「七海さん?」

訳がわからなくて今度は七海さんの顔を覗き込む。七海さんは私の両手をギュッと握って、何か決心したように口を開いた。

「私も、水瀬さんに名前で呼んでもらいたいです…!」
「……へ?」

予想の斜め上をいった回答に思わず気の抜けた声を出してしまった。すると七海さんは悲しそうに顔を歪め、瞳にはジワリと涙が浮かんだ。え!?え!?泣かせた!?これ私が泣かせたってことですか!?そうですよね私以外いないですよね。でも本当に訳がわからないです!

「駄目、ですか…?」

伏し目がちにそう聞かれて、胸がキュンとした。可愛い!な、なにこの可愛い生き物!

「えっと、じゃあ春歌も私のこと名前で呼んでくれる?」

それならいいよ。そう言うと七海さん…春歌はパッと顔を上げてぶんぶん首を縦に振った。

「も、もちろんです!アキちゃん!」
「それと、敬語も止めよっか。私ももう使わない」
「はい!じゃなくて、うん!」

春歌は物凄く嬉しそうに笑った。私もそれにつられて笑う。ああ、春歌って可愛いなぁ。

「あ、じゃあ私も!渋谷さんって呼ばれるのなーんかこそばゆいのよね」
「…いいの?」
「もちろん!春歌から話聞いてて仲良くなりたいなーって思ってたんだよね!」

女性アイドル志望同士よろしく!と渋谷さんは笑った。直接話すのは今日が初めてだったけど、春歌からよく話を聞いているから人となりはなんとなく知ってる。姉御肌で話しやすくて、とても優しい人だと思った。仲良くなれるなら私も嬉しい。

「うん、こっちこそよろしく!」

その後、春歌と友千香と一緒に女子トークに花を咲かせてつつ、思いっきり誕生パーティーを楽しんだ。やっぱり女友達っていいね!





名前を呼んで





そう言えば来栖は結局どうしたんだろう?


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