「ねえ、一緒に早乙女学園受験しようよ!」 彼女はとても優しい人だった。いつもクラスの中心で輝いていて誰からも好かれていた。そんな彼女の幼馴染ということが大人しくてどちらかと言えば地味だった私にとって唯一のステータス。彼女は私の誇りだった。 そんな彼女にアイドル養成学校として超有名な早乙女学園への受験を誘われたのは中学3年の春。人前に出ることが苦手な私にアイドルなんか無理だと何度も言ったのに、もう願書は提出済みだと彼女は笑った。凄く、理不尽… 「ほ、本当に無理だよ…私なんかじゃ」 「だーいじょうぶだって!アキは歌上手いし、顔は少し地味めだけど…そこは化粧でなんとでもなるって!」 「それ、後半褒めてないよね?凄く貶してるね?」 「往生際が悪いよー。もう願書出しちゃったって言ってるでしょ?書類審査に通ったらプロモ送らなくちゃいけないから歌とダンスの練習しといてね」 「だから、無理…」 ぼそぼそと俯きながらも受験したくないと言い続ける私に焦れたのか、彼女は私の両肩を勢いよく掴んだ。流石に驚いて顔をあげると彼女が真剣な表情で私をみつめていた。 「私、アイドルになるのが小さい頃から夢だった」 「うん…」 そんなこと、知ってるよ。誰よりも近くで見ていたんだから。彼女は本気でアイドルを目指していた。アイドルになるための努力を惜しまなかった。バレエやジャズダンスを習い、歌の練習もたくさんしていたのを私は知ってる。だから彼女が早乙女学園を受験することは当たり前だとすら思う。でも、どうして私まで? 「そんなの、アキとユニットでデビューしたいからに決まってるでしょ!」 私たち、親友なんだから! その一言で、私は落ちた。大好きな彼女と一緒にデビュー!彼女と一緒に輝くことができる!私が! それから毎日特訓をした。歌・ダンス・作曲・礼儀作法といった基本的なことから、料理・サバイバル・お笑いと本当にそんなの必要なの?といったものまで。彼女曰く、それくらい出来なくちゃ早乙女事務所ではやっていけないとのこと。これでも最小限らしい… 彼女と一緒に頑張った。彼女と一緒だから頑張れた。 文字通り血が滲むくらい努力して1年、私は念願の早乙女学園への入学が決まった。合格通知を受け取った時感極まって泣いてしまったのはここだけの秘密。 全てが順調なように思えた。このままいけば本当に彼女とデビューできるかもしれない。そう思っていた。 しかし、現実がそんなに甘いわけがなく… 彼女のもとに合格通知は届かなかった。 back -------------------------------------------------------* |