6月6日

オフ4日目。今日こそプレゼントを決めようと翔が好きそうな物のカタログを片っ端から集めて机に並べた。ふふふ、これだけあればなんとか今日中に決まるだろう。さっそく夏の新作の帽子が乗ったカタログを手に取るとピンポーンとインターフォンが鳴った。

「…?誰だろ…」

今日は来客の予定はなかった筈。不思議に思いながらも立ち上がりインターフォンに向かう。画面を覗くとそこには見慣れた帽子とサングラスをかけた小柄な少年が映っていた。

「え、翔!?」
『よ!』

な、なんで翔がここに!?今日は仕事が入っていたはずで…。

『おーい、開けてくれ―』

若干かすれた声でそう言われ私は慌てる。どうしよう!どうするもこうするも開けるしかないんだけど…。あ!カタログ!カタログ片付けないと!

『いないのかー?』
「ちょ、ちょっと待ってて!」

インターフォンから声をかけて私はリビングに駆け込んでカタログかき集め、まとめて寝室のベッドの上に放り投げた。それから鏡で寝ぐせなどをチェックしてから急いで玄関に向かう。

「お、お待たせ!」
「ったく、おせーよ」
「ごめん、でも今日仕事のはず、じゃ…」

ドアを開き、翔の顔を見た途端私は固まった。顔の大部分を隠しているサングラスは以前一緒に買い物をしていたとき買ったものだし、帽子も何度か見かけたことがある。ヘアピンも服装も見覚えがあるものだ。でもどこか感じる違和感。

「あの、違ったらごめんね。……薫くん?」

恐る恐る名前を呼ぶと翔の格好をした少年は少し驚いた顔をしてからニコリと笑った。

「お久しぶりです、アキさん」





いつまでも玄関で立ち話しているわけにもいかないので薫くんを部屋に通してお茶を準備する。

「すみません急におしかけちゃって」
「気にしないで、私もオフだったから」

紅茶を蒸らしている間にカップを温めておく。紅茶なんてある程度色がつけばいいと思っていたけど、それは紅茶に対する冒涜だと四ノ宮さんにおいしい入れ方をたたき込まれた。あ、そういえばもらいもののクッキーがあったはず…。

「なにか用でもあったの?」
「ええ、翔ちゃんに届け物を」
「あれ?でも今日は翔仕事が入ってて…」

戸棚から上からクッキーの箱を取ろうと格闘していると後ろからひょいと手が伸びてきて箱を掴んだ。

「これですか?」
「うん、ありがとう。ここのクッキーおいしいんだよ」

翔には内緒ね?と言えば薫くんは困ったような顔で笑った。その笑い方が翔とそっくりでああ、やっぱり双子なんだなぁと改めて実感。さっきも画面越しだと気がつけなかったしなぁ…。恋人とその弟を間違えるって言うのはどうなんだろう。

「他に手伝うことありますか?」
「ううん、大丈夫。ほら、お客様はソファに座っててください」

どこか居心地悪そうな薫くんをキッチンから追い立てて紅茶の準備を進める。…少し濃くでちゃったけど、お湯足せば大丈夫だよね?

「お待たせー」

紅茶とクッキーを乗せたお盆を持ってリビングへ向かう。薫くんはソファに座ってなにか雑誌を読んでいるようだ。

「あ、ありがとうございます」
「どうぞ召し上がれ。…何か興味ある雑誌でもあった?」

この部屋に置いてあるのは殆どがファッション誌で薫くんが興味を持ちそうな雑誌なんてなかったはず。少し気になって紅茶を出しながら薫くんが読んでいる雑誌を覗いた。

「ひゃあああああ!!!」

バシッと自分でも驚きの速さで薫くんが見ていた雑誌、いやカタログを奪い取った。

「み、見た…?って聞くまでもないよね…見てたよね…」
「はい、バッチリ。翔ちゃんの誕生日プレゼントですよね?」

カーッと顔に熱が集まる。

「ま、まあね」
「もう注文したんですか?」

薫くんの笑顔が目に痛い。私はあさっての方向を見つめて首を横に振った。

「何をあげたら喜んでくれるのか、わからなくて…」

もうただのパートナーじゃない。恋人なのに相手が何を貰ったら一番喜んでくれるのかがわからない。

「アキさんからならどんなものでも喜ぶと思うんだけどなぁ…」
「え?」
「いえ、なんでも」

ぼんやりしていたため薫くんが何かつぶやいたのを聞き取れなかった。首をかしげるが薫くんはニコニコと笑うだけでどうやら何を言ったのか教えてくれるつもりはないらしい。

「そう言えば薫くん、翔に届け物があったんだよね?よかったら預かろうか?」

翔は今日朝から仕事が入っていたため部屋には入れない筈だ。

「あ、大丈夫です。管理人さんに開けてもらいましたから」
「え…」
「弟ですって言ったらあっさり開けてくれました」

双子ってこういうとき便利ですよね。なんたって同じ顔ですから。そう言って笑う薫くんの笑顔は、少し黒かった気がした。





「すっかり長居しちゃってすみません」
「ううん。相談に乗ってくれてありがとう」

それからしばらく、薫くんとお茶を飲みながらああでもないこうでもないと翔へのプレゼントを考えたが、結局今日もプレゼントは決まらなかった。いや、いくつかいいかもしれないと思うものはあった。ただ、薫くんのプレゼントが問題だった。薫くんの届け物っていうのは翔への誕生日プレゼントで、なんとケンカの王子様の限定フィギュア。コレクターなら誰でも憧れる伝説の一品らしい。
…それをどこで手に入れたのか、薫くんは決して教えてくれなかった。
まあとにかくそんな伝説の一品に比べたら私の見つくろったプレゼントが霞んで見えてしまったのだ。

「それじゃあ、翔ちゃんにくれぐれも無理しないようにと伝えておいてください」
「あ、ちょっと待って」

玄関を開けて外に出ようとする薫くんを引きとめ、隠し持っていた包みを渡す。

「はい、これ」
「え?」
「薫くんの分はもう用意してあったんだ」

四ノ宮さんのプレゼントを買うとき、薫くんのプレゼントも一緒に買っておいたのだ。当日郵送しようと思っていたけど、直接渡せるならそれにこしたことはない。

「ちょっと早いけど、お誕生日おめでとう。薫くん」
「ありがとう、ございます…」
「あ、中身は栄養剤とかアイマスクとかいろいろ入ってるから家に帰ってから開けてね」
「ああ、栄養剤…」

だからこんなにずっしり重いんですね。と薫くんは苦笑した。

「薫くん自覚ある?薫くんだって翔のこと言えないくらい無茶してること多いんだよ?」

そっと頬に手を添えると薫くんはビクリを肩を震わせた。その目元には濃い隈ができている。

「ちゃんと寝ないと駄目だよ?」
「…っ」

薫くんは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。あ、翔と同じって言ったのは言いすぎちゃったかな?

「アキさん、いくらなんでも栄養剤の詰め合わせじゃあ誕生日プレゼントとして貧層だと思いませんか?」
「う…」

痛いところを突かれて言葉につまる。確かに私もそれは思った。でも最近薫体調崩してるっぽいんだよなぁと心配そうに言っていた翔を思い出してこれしかないと思ったのだ。

「な、なにか他に欲しいものとかある?」
「あります」
「はい、」

薫くんは今日何度か見た少し黒い笑みを浮かべて口を開いた。

「僕、アキさんをおねえさんって呼びたいです」

それじゃ、翔ちゃんにたまには家に帰ってくるように言ってください。そう言い残し薫くんは玄関を閉めた。
……はい?










案4、彼の一番好きなもの










「今のって、今のって…つまりそういう意味なの!?」(誕生日プレゼントどころではないようです)

back
-------------------------------------------------------*

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -