6月4日 オフ2日目。私はなぜか音也と一緒に喫茶店でお茶をしていた。 「それでさ、トキヤが怖い顔して言うんだよー。音也、どうしてあなたはそうだらしがないんですか。もっとアイドルとしての自覚を持ちなさい、ってさ。俺あの台詞もう学園時代から何回聞いたのかわかんないや」 何度も言われてる自覚があるなら言われないよう気をつければいいのに、と思ったけどあえて言わない。音也はさっきからこんな調子で自分の身の回りで起きた出来事を面白おかしく語っている。 今日も翔の誕生日プレゼントを探すつもりで寮を出た。しばらくあちこちを見て回っていたがこれだというものは見つからず、せっかく外に出たんだからちょっと雑用を片付けてしまおうと思い事務所に寄ったら音也がいた。少しの間立ち話をしていたのだがどうせならお茶しようという音也の提案でよく利用するこの喫茶店にやってきた。 「あ、ねえアキ」 「なに?」 「翔とはうまくいってる?」 「〜!?ゲホッ、ゴホッ」 飲んでいた紅茶がのどに詰まりしばらくせき込んだ。うわ、大丈夫!?と音也が背中をさすってくれた。ありがたいけど、お前のせいだよ! しばらくしてようやく咳が止まり、心配そうにしている音也に軽くお礼を言った。 「いきなりなんなの…?」 「んー…付き合うってどんな感じなのかなぁって思って」 「そんなの、私に聞かないで翔に聞けばいいじゃない」 音也と翔はバラエティで共演することも多かった筈だ。 「だって、翔に聞くと怒るんだもん」 笑顔でそういう音也を少しだけ殴りたくなった。ギロリと睨みつけても気にすることなく音也は最近デートした?とかどこまで進んだのかなどとしつこく聞いてくる。…どちらかといえばこのしつこさに翔も怒ったんじゃないだろうか。 どの質問にも答えず黙秘を貫いていると音也はふと何かに気がついたような顔をした。 「そういえば、名前で呼ぶようになっただね」 「え?」 「ほらさっき…」 一瞬何を言われたわからなかったが、意味を理解した瞬間目から火が出るんじゃないかというくらい顔が熱くなった。 「あ、や…違う!さっきのは…その…」 「あはは。アキ耳まで真っ赤〜」 「違うんだってば!」 「現場ではお互い苗字呼びのままだよね?あ、もしかして二人きりの時は名前で呼び合ってるの?」 「もう、本当に黙って…!」 さっきよりも赤くなっているであろう顔をこれ以上見られたくなくて私は両手で顔を隠して俯いた。最近ようやく名前で呼ぶことに慣れてきたけど、まさかそれで墓穴を掘るなんて…。恥ずかしい、穴があったら入りたい。 「…よかった」 「え?」 ポツリと落ちた言葉に思わず顔をあげる。 「アキ、ちゃんと幸せそうでよかった」 「音也…」 音也はとても綺麗な笑顔を浮かべていた。その笑顔を見てぎゅーっと胸が痛くなる。 「私、幸せだよ」 まだまだ駆け出しだけどデビューすることができて、パートナーにも恵まれて、心配してくれる友人もいる。これで幸せじゃないなんて言ったらきっと罰が当たる。 「そっか…じゃあ当然、翔も幸せにしてあげるんだよね」 「へ?」 さっきまでとはうって変わって、音也は意地の悪い笑みを浮かべた。 「翔の誕生日、何プレゼントするの?」 「…音也」 「ん?」 「最初からそれが聞きたかっただけでしょう」 あ、バレた?と音也は悪びれることなく笑った。純粋で素直な音也はどこにいってしまったんだ…。 「まだ買ってない」 「え!?」 もう隠すのも面倒になって投げやりに答えると音也は驚いたように声をあげた。 「ずっと仕事で忙しくてまだ買ってない。というか何買うかも決まってない」 「アキ、それは彼女としてどうかと…」 「う、うるさいな!そういう音也はどうなの!?」 「俺?俺はもう用意したよ?」 「う…」 まさか音也も既に用意してあるなんて…。友千香や聖川さんといい、どうしてみんなそんなに行動が早いの…? 「ちなみに、何を…」 「教えてほしい?」 「…いい」 「ええええ!?そこはくい下がるところでしょ!?」 「なんかイラっとした」 そんなぁと肩を落とす音也をみて少しだけすっきりした。さっきからかった仕返しだよ。 「はいはい。ほら、聞いてあげるから。音也は何を用意したの?」 「サッカーボール!」 「…あぁ」 「なにその反応!?」 「いや、予想通りだなぁって…」 音也と翔は学園時代からよく一緒にサッカーをしていた。今でも時間が合えばやっているらしい。 「いいの!きっと翔喜んでくれると思うし。それにこれなら一緒に遊べるじゃん」 音也は拗ねたようにそっぽを向いた。少しからかいすぎちゃったかな? 「というかアキ、早く用意した方がいいよ?こんなところで油売ってないでさ」 「あのねぇ…」 顔が引きつるのを抑えて私は音也の肩を掴む。 「お前がそれを言うな!!」 案2、一緒に遊べるもの? (5 days before) 「でも、私と翔趣味が全然違うからなぁ…」 back -------------------------------------------------------* |