6月3日

オフ1日目。まだ疲れの残る身体を引きずって私は部屋を出た。もちろん翔の誕生日プレゼントを探しに行くためだ。一晩自室で考えてみたけど、特にいいプレゼントは思い浮かばなかった。…というか気がついたら朝だった。いつ寝たんだ…。

「アキ」
「きゃあ!」

どこに行こうか考えながら談話室を抜けようとしたところで声をかけられた。驚いて声がした方を見ると談話室に友千香と聖川さんとセシルくんがいた。

「と、友千香…。びっくりした…」
「ごめんごめん。そんなに驚くなんて思ってなくてさ」

友千香は悪びれる様子もなく笑った。もう、本当に驚いたんだから…。

「珍しい組み合わせだね」
「そうか?」

聖川さんとセシルくんはそろって首をかしげた。聖川さんと友千香は学園時代同じAクラスだったのでよく一緒にいるのを見かけたが、一緒にいたのはやっぱり同じAクラスの音也や四ノ宮さんが多かったように思う。なので卒業後知り合ったセシルくんと一緒なのは珍しく思えた。

「なにしてたの?」

机の上にはさまざまな本が広げられていた。旅行のパンフレットから、難しそうな歴史書、なぜか国語の教科書まである。

「マサトとトモチカに日本のことを教えてもらっていたのです」
「ああ、なるほど」

セシルくんは1年前に社長がスカウトしてきた子で、なんとアグナパレスという楽器で有名な国の王子様らしい。自称王子ではなく、本物の王子。言葉に関してはだいぶ慣れてきたものの、まだまだ日本について知らないこともたくさんあるだろう。

「勉強熱心なのはとてもいいことだ。それに人に教えることで自分自身が学ぶことも多い」
「そ、そうですか…」
「ああ、知っていたか水瀬。日本にはパワースポットと呼ばれる場所がいくつもあって…」
「あーはいはい。まさやんその辺で」

聖川さんがパワースポットについて熱く語りだす前に友千香が話題を切った。さすが元クラスメイト、扱い方が手慣れている。それにしても今更パワースポットって…聖川さんはセシルくんに日本の何を教えていたのかちょっとだけ心配になった。まあ友千香がいるから大丈夫だとは思うけど…。

「アキも今日はオフ?」
「うん。昨日までロケだったから長期のオフもらえたんだ」
「そっか、けっこう長期のロケ入ってたもんね。お疲れ様。で、今日は買い物?」
「そのつもり。オフって久しぶりだから日用品買いながらいろいろ見るつもりなんだ」
「ふーん。いろいろ、ねぇ…」

友千香はどこか含みを持った言い方をした。な、なんだかすごく嫌な予感。

「そういえば水瀬、何かあったのか?」
「へ?」

聖川さんが少し心配そうな顔で言った。友千香に何を言われるか身構えていたから思わず気の抜けた返事をしてしまった。

「先ほどずいぶん思いつめた顔をしていたので気になってな」
「あ、ああ。えっと…」

翔の誕生日のことすっかり忘れててプレゼントどうしようか悩んでたんです〜。…なんて言えれば苦労しない。いや、できれば相談したいけど、絶対にからかわれる。友千香とか友千香とか友千香に。それは避けたい。恥ずかしい。でも他の人の意見を聞いたら何か参考になるかもしれないし…。
友千香にからかわれることと喜ぶ翔の顔を天秤にかけ、考え込む。しばらくぐるぐると悩んでいたが、私は3人に相談してみることにした。少しからかわれるくらいがなんだ!

「たいしたことじゃないんだけど…その、みんなはもうしょ…来栖と四ノ宮さんの誕生日プレゼントって用意した?」

あくまでそっけなく。そっけなく。なんてことないように…

「ふーん。やっぱり翔ちゃんの誕生日のことかぁ」
「う…」
「ずばり、プレゼントが決まらなくて悩んでたんでしょう」
「うう…」

四ノ宮さんも一緒に聞いたのにやっぱり友千香にはお見通しのようだ。ニヤニヤとアイドルらしからぬ笑みを浮かべる友千香に私はガクリと肩を落とした。

「あたしはもう用意したよ」

私の反応をみて満足したらしく友千香はとてもいい笑顔でそう言った。その笑顔が少し憎らしい。

「俺も下準備は整えてあるぞ。直前に時間がとれるかわからなかったのでな」
「下準備?」

プレゼントにいったい何を仕込む必要が…?

「ああ、俺は料理を振る舞うつもりだ。四ノ宮にはクッキーやケーキ、来栖には背が伸びるようカルシウムたっぷりの料理を用意している」

私が怪訝そうな顔をしていたからか、聖川さんが補足を入れてくれた。なるほど、聖川さんの料理の腕はプロの料理人顔負けだ。き

っと二人とも喜ぶだろう。翔は少し怒るかも知れないけど…。聖川さんに悪気はないとはいえ、あからさまに身長が伸びそうな食材が使われた料理を見たら怒らないまでも複雑な気持ちにはなると思う。

「あっちゃー…まさかまさやんと被るとは…」
「え!友千香も手料理なの!?」

というか友千香って料理できたの!?

「あんたねぇ…。あたしだって料理くらいできるわよ。そうじゃなくて、翔ちゃんのプレゼントがね…」
「?…何を用意したの?」
「牛乳一ヶ月分」
「え…」

あまりにサラリと言うものだから一瞬理解ができなかった。

「牛乳一ヶ月分…?」
「そ。あ、もちろん現物渡すわけじゃないわよ?牛乳一ヶ月分の引換券」

説明してもらって言うのもあれだけど、ごめん友千香、問題はそこじゃない。

「怒るよ…絶対に」
「翔ちゃんって反応が面白いからついからかいたくなっちゃうのよね〜」

あんた達本当にいいコンビだわと友千香は笑った。…全然嬉しくないです。

「ショウは背が伸びるものをあげたらよろこぶのですか?」
「え、いや…」

今の会話のどこをどう解釈したらそう思えるのか不思議だが、セシルくんの目は本気だった。

「ではワタシはアグナに伝わるお守りをプレゼントすることにします!」
「お、お守り?」
「イエス。アグナでは幼い子供の背が伸びるよう、誕生日にわたすお守りがあるのです」

今から取り寄せれば間に合います!とすごく嬉しそうに話すセシルさんを誰が止められるというのか。ごめん翔…。でも翔も怒るに怒れないと思うの。

「そ、そう。喜んでもらえるといいね」
「はい!アキもいいプレゼントがみつかるよう祈っています」
「…ありがとう」

コンプレックスを刺激するプレゼントを3つ渡される翔に同情しつつ、私は3人にお礼をいって足早に寮を出る。これ以上話しているといろいろな意味で買い物に行く気力がなくなりそうだった。










案1、背が伸びるもの?
(6 days before)









「これ以上身長ネタ引っ張ったら駄目…絶対に駄目…」

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