「一十木くんの誕生日パーティ?」
「はい!水瀬さんも参加しませんか?」

曲の打ち合わせ中、どこかそわそわした様子の七海さんに何かあったのか聞いてみると待ってましたとばかりの笑顔が返ってきた。
なんでも明日、七海さんの同室の渋谷さんの提案でAクラスの一十木くんの誕生日会をするらしい。

「でも私一十木くんとほとんど話したことないし…」
「大丈夫です!私もこの前友ちゃんの紹介でお話したばかりですがとっても優しい方なので!」
「…いや、そうじゃなくてね?仲良くない子が誕生日会にいても、気を使わせちゃうでしょ?」
「でも、たくさんの人にお祝いされたほうが嬉しいはずです」
「そ、そうだね。仲のいい友達ならね」
「はい!だからこのパーティーで水瀬さんも一十木くんとお友達になりましょう!」
「…うん」

たまに七海さんとは話がかみ合わなくなる。というか、七海さんっておとなしそうに見えて結構自分の意見を主張できる子だよね…。
そんなわけで、私は一十木くんの誕生会に半ば強制的に参加することになってしまった。
さすがにプレゼントもなしに誕生会に行くんじゃ失礼だと思ったものの、もう22時を過ぎているから今から出かけるのは無理。サオトメートに来てみたけど、ちょっとした雑貨や生活用品ばかりでプレゼントになりそうなものは見つからない。まあ当然といったら当然だ。…七海さんもせめてもうちょっと早く言ってくれればいいのに。

「いっそなにか作ろうかな…。あ!」

これいいかも。うんうん。確か好きだって言ってたはず。
食材コーナーで見つけた物を何個かと包装紙、リボンをカゴに入れレジに向かう。これをプレゼントと言っていいのかは微妙なところだけど、喜んではもらえるだろう。後は部屋に戻ってラッピングをすれば大丈夫。うんきっと大丈夫!飛び入り参加の私にそんないいものは期待しないでしょ、多分!

「…これは酷い」

ラッピングを終えてみるとなかなかに酷いできのプレゼントが出来上がった。包装紙はよれよれだし、リボンはぐしゃぐしゃ。というか中身が少し見えてる。酷い。さすがにこれは酷い。
やり直そうにも包装紙もリボンも使い切ってしまった。もう一度サオトメートに行こうとルームメイトに一声かけてから財布だけ持って部屋を飛び出した。

「あ、ちょっと!もう購買部閉まってる…って、遅かったか」





そして迎えた誕生会。

「一十木くん、お誕生日おめでとう」

結局包装紙を買うことはできず、なんとか中身が見えているという状態ではなくなったプレゼントを渡した。皆ちゃんと一十木くんの趣味とか音楽関係のものとかをプレゼントしているのに…ああもう早く帰りたい…。

「うわー!水瀬もプレゼント用意してくれたの?ありがとう!ね、開けてもいい?」
「い、いいけど…期待はしないほうがいいよ」

一十木くんは目をキラキラさせて丁寧にプレゼントを開けた。

「あ!早乙女カレー!しかもこんなにたくさん!」
「その、急だったからサオトメートで買って…しかもラッピングぐちゃぐちゃで…ごめんなさい」
「なんで謝るの?俺すっごく嬉しいよ!」

一十木くんは本当にうれしそうに笑っていた。よ、よかった…。

「にしてもいくら音也がカレー好きっていっても、これ全部甘口じゃん」
「え、俺甘口が一番好きだよ?」

呆れたように来栖に対して一十木くんはどう頑張っても中辛がぎりぎりだからね!と言い切った。あまりに堂々と言ったから思わず噴き出し

てしまった。

「ふふ…一十木くんって本当に甘いカレー好きだね」

さすがに16歳の男の子に甘口カレーはどうかと思ったけど、辛口は苦手って昔言ってたの覚えててよかった。というか、好みが変わってなくてよかった。

「ああああ!!!」

一十木くんは私を指さして突然叫んだ。え、何?私何か悪いこと言った?

「君、アキだよね!?」」
「何言ってんだよお前。さっき紹介しただろ?コイツは俺のパートナーの水瀬アキ!」
「いや、そうなんだけど!そうじゃなくて!」

一十木くんは興奮気味に言葉を重ねる。でもこっちは意味がわからない。本当に何言ってるの一十木くん。

「ちょっと音也、大丈夫?嬉しさのあまりネジとんじゃった?」
「友千香ヒドイ!えっと、アキって出身東京?」
「う、うん」
「じゃあやっぱりそうだ!」

一十木くんは今日一番の笑顔を浮かべて私の手を取った。な、なんだろう…すごく嫌な予感がする。早乙女学園に入ってから的中率が怖いくらい上がってる私の第六感が逃げろと言っている、気がする。

「俺たち、小学校一緒じゃなかった?」
「え!そうなの?」

サーっと血の気が引いて行くのが自分でわかった。
どうしてここで思い出すの!?廊下ですれ違った時とか来栖と一緒にいるときに何度か話した時は全然気がついてなかったのに!

「…な、なんのことだかさっぱりだよ!」
「えー絶対そうだよー。なんで嘘つくの?」
「知らない知らない!一十木くんとか知らないから!小学校とか私行ってないから!」
「いや、それは無理あるだろ」

来栖うるさい!今はそれどころじゃないの!というか一十木くんすっごく楽しそう。え、なに?一十木くんって案外いじめっ子?そんな性格だった?

「あ、もしかしてあのこと気にしてるの?いいじゃないかわいかったよ?アキが小学校のころ」
「一十木くん!ちょっとこっち来て!」

ぐいぐいと一十木くんの手をとり部屋の隅へ引っ張って行く。な、何を言おうとしているのこの人!

「あのね一十木くん!」
「ねえねえアキ。昔は音也くんって呼んでくれてたじゃん。音也って呼んでよ」
「そんなことより」
「音也」
「一十木くん。話を聞いて…」
「音也」

ああもうめんどくさいなこの犬!しつこい!さっきまで普通だったのにどうしてこんなに私に懐いてくるの?まあ嫌われるよりずっと…いや、いっそこれなら嫌われたほうが…

「あのね一十木くん。人間誰しも思い出したくない過去っていうものがあって…」
「あ、やっぱり小学校時代おかっぱだったの気にしてるんだ?」
「きゃああああああ!!!」

なんでさらりと私の消し去りたい過去を言っちゃうかな本当にこの子空気読めない!誰かなんとかして!
そうですよ。私は一十木くんと小学校一緒でしたよ!だから給食がカレーのとき喜んでたことも知ってましたよ!
それに小学校低学年のときの髪型はおかっぱでしたよ!それも刈り上げの!ああ忘れたいのにどうしてこんなことに!
私は一十木くんの肩をがしりと掴んだ。

「お願い!誰にも言わないで!」
「いいよ」

あっさりと一十木くんは頷いた。拍子抜けするくらいあっさりだ。

「ほ、本当!?」
「うん。その代わり音也って呼んでくれる?」
「え…それだけでいいの?」
「うん。アキが音也って呼んでくれたら嬉しい」

だからそれで充分!と一十木くんは笑った。かぁーっと顔に熱が集まっていくのがわかる。ど、どうしてそんなことあっさり言えちゃうのかな!女の子にそんなこと言ったら勘違いする子もいるから気をつけたほうがいいと思う。

「わ、わかった。えっと、音也くん…でいい?」
「音也でいいよ」
「呼び捨てはちょっと…」

男の子を名前呼びしてたのなんてそれこそ小学校時代まで。最近は女の子だって苗字で呼ぶのにいきなり名前呼び捨てはハードルが上がり過ぎだ。

「そう?でもそれだと俺うっかりしゃべっちゃうかも…翔とか翔とか翔とかに…」
「お、音也!音也って呼べばいいんだよね!呼ばせていただきます!」
「じゃあ、二人だけの秘密だね」

これからよろしく。一十木くん改め音也はそう言って笑った。その笑顔はさっきより少しだけ怖かった。





幼馴染との再会





再会した幼馴染は少しだけ黒くなっていたようです。









(これを音也誕と言い切る勇気!)

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