カギのかけられた部屋 | ナノ
PARADOX 2

青木Side

……あれ、僕、こんなキャラだったっけ?
脅し、みたいな?

「そうじゃないよね……」
思わずそう口が動いた。

「どうしたの?」

車いすを器用に動かしながらリビングを行ったり来たりする王子。
お茶なんて出さなくても……って断ったにもかかわらず
「僕にもお・も・て・な・し・おもてなしさせてー」
と例のフリーアナウンサーのようなにこやかな笑顔でキッチンへと行ってしまう。
「一人で生活できるんだぁ」
キッチンで少しだけ低くなっている彼専用らしい台の上で彼専用のコーヒー機を回す。
青木は感心するというよりも少しがっかりした。
「王子には僕が何でもしてあげるのに……」
はぁ、まだまだだなぁ、そう思っているとさっきの教室での風景がざっと僕の脳内を駆け巡った。

「ねぇ、どうしたの? コーヒー出来たよ?」
王子様からの二度目の催促。
「あ……ありがと」
目の前の机には黒々としたブラックコーヒー。
「あれ? ブラックだよね? 好きなの……あ、ミルクとか?」
「ん、違うよ。 王子が直々に入れてくれたから……日本茶道のようにしっかりみていただけー」
 ちょっと目をそらして紅いであろう頬を彼にわざと向ける。
「そーなんだ? でも眺めても味は変わらないよ。だって、抹茶じゃないし。大量買いの粉しか僕の家にはないからねぇ」
 クスクス笑う君。

……いや、いやいや。
……そういうことじゃないよ。安いとかじゃないって。


僕の言葉に素直すぎるんだって王子様。 このままじゃ誘った意味にも気づいてはもらえ……。



「ねぇ、青木君」
「ん」
「さびしかった?」
「へ?」
彼が笑う。
「いつもさ、学校では僕のことずっと車いす押してくれて、帰りは迎えに来てくれるから、さ。一人でも何とかなるって思ったら悔しかったり……したでしょ」
「え、そんなこと」

……いや、今日の彼は攻めか、攻めなのか?

「僕、そこまで頭悪い気はしないからね」

僕のコーヒーカップを王子がひゅっと持ち上げてそのまま残りのコーヒーを一口飲んだ。そしてつややかな目線を僕に向ける。

「これ、間接キス? ……うわぁ、僕の発想、小学生みたい。青木君はこういう経験した? 僕はね、家族としかまだしてないかも」

王子に返事を求められて少し迷う僕。

「僕は……」

姉、とならしたけど。……もう、そんな記憶、なかったことに。

「してないよ。初めてかなぁ、じゃ、王子様のもいただこうっと♪」

そう言った。二人のカップにそれぞれの唇が触れる。青木の口にはミルク入りの甘ったるいカフェラテが、伊藤の口には感じたことのないダークな苦さが混ざり合う。

「あー、おいしかったね」

二人で交換し合ったカップをそれぞれキッチンへと戻す。

せっかくの口付けを洗浄してしまうのが少し残念に思えたが、今は伊藤家にいるからして、世間並みの礼儀や常識を忘れるわけにはいかない。
青木は伊藤の持つカップも数分間の小さな口論のあとに取り上げ、洗い流した。



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