カギのかけられた部屋 | ナノ
初めての夜5

side 青木
「あ、来たー」
袴姿の伊藤が僕の視界に映る。この前のクリスマスに買ったブーツを彼は身につけていて。あー、着物が重くて大変なのか、女の子のように白い腕をちらりちらりと見せながら車いすを回して近づいてくる彼。

「あけまして、おめでとう」
僕が駆け寄ってあげると彼は顔を火照らせる。なんでこう……僕の心にまっすぐなんだろうね、君ってさ。
「おめでとう、青木君」
公園の隅、僕はちょっとかがんで伊藤と新年初のハグをする。
「でかけない? 初詣」
僕がそういうと彼はうれしそうにうなづいた。



side 伊藤
「ふー、初詣も終わったし、次、どこ行く?」
神様に願ったこと? うーん、それ言わなくてもわかるんじゃない?

「ねぇ、王子様、今日の寝ざめはどうだったの?」
「へ?」
いきなり青木君がしゃべりかけてきた。あ、どうしよう……あんなエロスな話はちょっと引かれるよね、ていうか僕が変態みたいであぁあああ!
「ふふっ、どうしたの? まさか、ディープな夢だったりしたの?」
「い、いや、そんなんじゃないよ、ちょっと恥ずかしいけど」
「へぇ、王子様の初夢、顔に真っ赤にするぐらい恥ずかしいの? 面白そう」
「だ、だから違、ンっ……」
触れ合う唇。彼のキスは優しくて、そっと互いが触れるだけだから冬の風にすぐ乾かされてしまって。
「僕も、見たんだ。大好きな人とあんなことして……だって夢の中の王子様、『あふれるままでいいよ』って言ってくれるから」
……どっかで聞いたようなセリフ。
「それって、青木君が僕のことホテルにとめた話?」
「え? そこまでわかっちゃうの? エスパーだね、王子」
「あ、うん……でもあれは青木君が悪い」
「え?」
「あ、なんでもないよ! えっと、今度の勉強会の日、決めない?」
僕がその話を打ち切ろうとすると彼は少しだけ首をかしげたが、すぐに
「そうだね、一応、……受験生だし」
そう返してくれた。


はぁ……青木君ってば。僕と同じ夢、見てたんじゃ……うん、でも彼が悪いんだよ。
ホテルに連れ込んだの、彼だもの。ドキドキさせてくれたのも、ドキドキさせられたのもどうやらお互いさまだったみたいだけど。
「何考えてるの、王子様? 勉強がスランプとか?」
今日に限って青木は鋭くないし。
「ちょっと、寒くて。誰かあたためてほしぃなぁって」
そうやっていって僕はわざと寒そうなふりをした。
……少し、沈黙の間があった。
あ、やっぱり、きつかった?

すると。
「ひゃっ」
耳にそっと触れた青木君の唇。
「来る? この後。 温めて、あげる」
僕は……こくりとうなづいた。

白銀の雪はまだこれから降り積もるらしい。

「じゃ、夢の続き、一緒にみようね?」
「うん」
車いすの速度がわずかに上がった。青木の気持ちか、僕の早まる鼓動の勘違いか。
「もう、わかりやすいんだから」
ほっぺたをつつかれる僕。二人で少し、笑いあって、そして暖めあう。
青木君の家まであと少し……。

「その夢、解けないようにしてあげる」

モノクロをベーシックにしたシャープなベッド。そこに僕を下ろした後、彼もベッドへと体を滑り込ませた。僕がちょっとだけ目をそらそうとするも、青木にがっちりと甘い唇をつけられてしまう僕。


優しい口付けは彼と僕だけの魔法で。そこではまた夢の時とは違う現実での二人を感じることができて。


おめでとう、あけまして。
今年も、いやずっと。……よろしくね、青木君。



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