カギのかけられた部屋 | ナノ
初めての夜。

「今日、この場所で待ち合わせね」
「ん? ここって……」
「ここって、じゃないでしょ、絶対、だからね」
僕は伊藤君にそう告げるといつものように「じゃあね」と言って手を振った。

「んー、すっごく楽しみだな……」
青木は木の陰で待っていると、例のごとく彼は僕の指定場所に現れた。
「あっつい……。青木君の意地悪」
「えー、今からは押してあげるからぁ、ね?」
わざと腰をおろして彼の顔を覗き込んで見せる。
「んー、そうやっていつも僕のことで遊んで……」
そういってそっぽ向く代わりに照れ屋さんな君。そういうの、可愛い。

そして、僕らは夜行バスに乗った。
「夜行バスで向かうとこって一体どこ?」
さっきからキラキラした目でそう僕に問いかける君。
伊藤君、楽しみは最後までとっておかなくちゃ、ね。
「んー、と面白いところだよ、きっと君も気に入ってくれる」
……ふふっ。もう、逃げられないね。


「結構都会、なの?」
田舎の町を抜け、あたりは少し派手な光達であふれていた。
「おかしいなぁ」
伊藤は景色を眺めながらそんなことを一人つぶやいた。もちろん、企画してくれた青木君には聞こえない程度、なんだけど。
毛布の掛けられた膝。僕はずっと椅子に座ったままだから、かなりバスの時間を長く感じてしまう。
「あ。次だよ、次」
そう言って、青木がボタンを押す。
いつの間にかバスの中は二人しかいなかった。運転手さんは僕の車いす用の機械をわざわざ起動してくれた。
「よい旅を」
そう言ってくれた運転手の声が遠くこだましているように聞こえた。
「じゃ、レストランに行こうね、王子様」
一方、明らかにテンションの高い青木。たぶん、いいことでもあったんだろう。
「そうだね」
近くのレストランで食事をとった。途中で飲み物を頼んでそのあとにちょっと……あれ……なんか……眠い。


「伊藤、君、伊藤君!」
誰かの呼ぶ声がする。え、えっと……誰だ? この人……?

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