トラブルメーカー | ナノ
綺麗な人。5


青木side

一体何年振りだろう。このリンクに上がったのは僕が3歳の時で、姉がやっているのを見て「僕もやりたい」と母の服を思いっきり引っ張ったものだ。

姉がすべらなくなってから、僕も同じくリンクを降りたけれど、幼少期のあの気持ちいいリンクの感触を忘れてしまったわけじゃない。

「お願いします!」

と椎羅ちゃんに頼まれてしまいそれを引き受けてしまった。もちろん結局チャンスを逃しまくって僕がチョコ代を払えなかったからでもあるんだけど。

「ねぇ、どんなの作ったの?」

彼女はチョコ専門のお嬢様だ、きっと、お上手なんだろう。

「えっと、ガトーショコラひとかけと、まかろん、あ、アザランを飾り付けたボンボンショコラにうちで売ってるベーシックなチョコ? うん、そんな感じ」

「へぇ、凝ってる。うれしいだろうなぁ、そんなチョコがもらえる人」

「作ってあげてもいいよ? 彼が妬いちゃうかな」

「それなんだったら僕もチョコ屋さんに生まれたかったかも……うふふ」

「あー、やめといて? 結構大変だからね、経営するの。優太君センスよさそうだし」

「……名前聞いてもいい? 彼氏の」

「え、何て?」

「あー、教えてくれないんだ、お嬢様は」

「お嬢様って……。あ、ほら、ついたし、お金持ってるんだったら、スケート靴借りて? チョコ代払いたかったんでしょ? 滑ってくれたらそれを代金にするね」

「あ……、うん。仕方ないなぁ、ボンボンお嬢様」

僕がツンと彼女の額を軽く押すと彼女は顔を赤くする。あ、伊藤君みたい。湯沸かしみたい。王子様に続いてお嬢様に会えるなんて、とってもいい気分。

そして、スケート靴を用意しようと出かけた僕。彼女は彼のもとへと走り去ってしまった。

「久しぶり」

もう、姉が滑れないから僕も滑らないと決めていたけれど。

「一度くらい、いいよね?」

チョコ、後から見たら結構高級なやつばっかり食べさせてもらったみたいで。
受付を済ませて、携帯を開いた。すると、何件か伊藤君から電話がかかってきていた。

「あ、気づいたんだー」

でもすぐに出てくれない王子様はちょっとねぇ……。

おしおきってことで僕も放置プレイ。

「優太君ー!」

スケートリンクの方から椎羅ちゃんの声がする。

「はいはい、ちょっと待って」

携帯を閉じて僕はお嬢様のほうへと向かった。


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