トラブルメーカー | ナノ
綺麗な人。4


椎羅side


なんか、おかしいと思った。
毎年、というより、年に何度か、店のむかい側のベンチに座って10分くらいしたら帰っていく男の子がいるの。

今年こそ、声、かけるんだ!

って彼氏に言ったら、「俺のいない間に心奪われないでよー? 俺、お前のこと、マジで大事なんだから」って。大事なんだったら、ちょっとくらいリンク降りて私の家に来なさいよ、バカッ。


「試食いかがですか?」
奥のテーブルを確保して、彼と接触。やったね、私、むっちゃうまく行ってるよ! 半ば強引に店内に誘いこむと彼は少々困った顔をしながらもついてきてくれた。

チョコレートの説明をしながら彼の様子を伺う。いきなり「何度かここに足を運んでますよね?」なんては聞きにくいし。

すると。

―――え? ないてる?

確かめたくて、彼の涙に触れた。

―――透明だ。……透明な水。

すると。

「僕と姉貴のことなんだ」

じいちゃんが死ぬ前に聞かせてくれたお話を思い出した。



―――あの二人はよくここへきてくれたものでねぇ、何が気に入ったのかわからんが、いつも姉のほうが弟を連れてくるのだよ。
そして、姉のほうはオルゴールが好きでな、弟が嫌がるにもかかわらず何度もネジを回して音を出しておった。

何度も聞いていた。けど、けれど、こんな偶然って。。。

―――椎羅、あの姉弟がまたこの店にきたら、そのときは仲良くしてやってくれな。頼んだぞ。過去は消せんけどな、思い出としてしっかりしまっておくことはできるんだから。


……目の前で涙だけを流す優太君。

そして、彼が言う。

「あ、ごめんね。チョコ、美味しいのは本当だから」

そういって、さらに一つ残されたラズベリー味のチョコを口に含む。

「心までしみこむような味、素敵」

涙をふき取って、ニコリと笑う。

「あ、あの……!」

 私が声を出す。

「何? 椎羅ちゃん」

「これから、暇ですか? 忙しいですか?」

「忙しくないけど……。いいの? 彼氏いるんじゃ?」

「スケート、してましたよね?」

「え。どうして」

「祖父が言ってました。二人とも……あなたのお姉さんもスケート場通ってたって。私、彼にチョコ作ったんで、一緒に行きましょう! 踊ってください」

「あ、でも、昔の話で、そんな……」

「お願いします、優太君」

お願いにしては難しかったかな……。顔を上げると彼はやさしい笑顔をしていた。

「彼氏に勘違いされないなら僕は行ってもいいよ?」

「ありがとう!」

 実は雄太君には言ってないけど。毎年、あなたのお姉さん、ここに来てます。
 ウィ・ラヴィリに。……開店してからずっと、車椅子のお客さんが来てるって。
 話を聞くに、彼と彼女は事情かなんかでずっと会えてないらしいんだけど。
 君のお姉さんは予約のケーキを14時に取りに来るって言ってた。
 ちょっとだけでも、見せてあげたいな。おせっかいかもしれないからほんのちょっとだけ。


「じゃあ、自転車貸すから、これ使って?」
「あ、いや、悪いよ。歩いてもいいよ、僕」
「だーめ、急いでしっかり準備してから滑ってほしいの」
「ふふっ、優しいね、椎羅ちゃん。彼以外にそんなに優しくしちゃいけないんだよ?」
「ん、私は滑らないからいいもん! あ、チョコもリンクもね!」
「すごいねー」
「棒読みじゃんっ、優太君ひどいんだからー」

自転車を走らせること15分。スケートリンクに到着しました。









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