トラブルメーカー | ナノ


「どれにしようかな……」
彼女が楽しそうにショーウインドウを覗き込む。冬の寒い日だったのを覚えている。確か、空からは白い粉雪も降ってきていて、その日は恋人との記念日とするには本当によい一日だった。
「怜、何を見ているのですか?」
少し年離れた女性を前に僕は戸惑いを隠せなかった。僕の服装はいつもスーツ。平日をそれだけで過ごしているからか、あまり私服を選んだりすることは少なくて。
「あ……成瀬さん、これ、素敵だと思いません?」
それは赤と茶色を基調にしたマフラーだった。ほしいのかな、なんて思っていると彼女はそれをとって僕の首に巻こうとする。
「な……怜さん!?」
「な、じゃないですよ、ほら! すっごくお似合いなんですから」
「は?」
わけのわからない顔をする僕の手をとって、鏡のある方へと引っ張っていく怜。僕の首に巻いたままのマフラーがふわりとゆれる。少し頬の温度が上がるのを感じた僕はすぐにうつむいた。
「一体、何の真似ですか……僕はてっきり、貴方がこれを――」
「だって、成瀬さん、ずっと黒いスーツばっかで……。たまにはお洒落して欲しいなって」
「それは仕事ですから仕方がなくて……」
「貸してください、ほら」
ひゅるりと首から優しくほどけたマフラーを彼女が店員へ差し出す。
「あ、怜さん!」
「払わせてくれないと、怒りますからね」
そういってレジへ走っていく怜。……ったく、貴方って人は。僕は反論しようと慌てて彼女を追いかけた。が、その時だった。急に僕の携帯が鳴った。
「はい、成瀬」
急用で仕事場に戻らなくてはいけなくなった。でもこんなときには行きたくないし、行きたくなかった。脳ではどちらが大切なのか理解していても……今は行きたくない。
携帯をしめて、ため息をつく。しばらくすると、彼女が帰ってきた。
「はいっ、これ」
嬉しそうに袋を渡す彼女。その笑顔はここ最近の中で一番輝いているものだった。
「ありがとう、ございます」
僕が遠慮がちにそういうと彼女はさらに喜んだ顔をする。
「いえいえ、私がプレゼントしたくて買ったんです、気にしないでください……ほんと、似合ってます!」
なんだか、そこまでいわれると照れくなってしまう。
「じゃあ、今度は僕が――」
その時だった。再び、僕の携帯が鳴った。けたたましいその音に、二人の空気は引き裂かれてしまったのはもちろんのこと、こんなシーンを中断してしまった僕のほうが恥ずかしい。僕の体が固まってしまって少しすると、彼女がそっと僕の鞄を指差した。


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