始まりの音
「今日も、一日が終わってく、か」
学舎は、職場である学校を後にした。時計を見ればちょうど8時。今日はちょっとだけラッキーな日でいつもより早めに帰宅することができそうだった。
街を抜け、街灯の少ない裏路地にでた。家まで、もうほんの数分というところーー。
ふと後ろに人影を感じた。しかも……ついてきてる。
ストーカーかよ、そう思って学舎はいつもと違う道を進んでその真相を確かめた。
「誰、かな」
振り向く。しかし、そこには誰もいない。
「……っ?」
いや、確かにさっきまでは感じていたはずーー。
「どこにいる!?」
俺が叫ぶ。
「お前、学舎だな?」
ふってきたその声。上を見上げると、そこにいたのは俺の知っている人ーー。
「なっ。お前は!?」
「今日の昼間は世話になったなァ、まじめな教師さんよっ!」
ーー生徒指導した奴だ。つか、こいつ、あっさりと謝ってた奴じゃないか。
そう考えていると言葉を発する前に何かが俺の左腕をかすめた。
「ぐっ」
それは突然だった。どこから飛んできたかもわからないナイフが俺の左腕を確実に傷つけていた。
「な、何を……」
痛い、というよりも、左手に何が起こったのかがわからない学舎。
しかしそういう間にも左腕から血が流れる。しかも、おかしいことにそこだけ感覚を失ったかのように『痛み』を感じない。
「ちょっと、ムカついたんで」
ーー明らかに科学では証明できない能力。……かまいたちのようなあのナイフ術。
「待てよ!」
俺が叫ぶ。
「もう一戦やるんですか? 面白いじゃないですか。いいですよ」
「その能力、……どこで手に入れた?」
「はぁ?」
「もう一度聞く。それはどこでっ!」
その時だった、今度は左足を切られた。ったく、話は最後まで聞けって。
「じゃぁな、せんこ「待ったぁー」
立ち去ろうとする不良の言葉を止めたのは空に浮かぶ二つの人影。
「何やってのかなぁ、君?」
「ちぇっ」
「ちぇ、じゃないでしょう? 貴方、さっき、違法な能力使ったじゃないですか。それとも、もう少しお話タイムが必要ですか?」
一人は緑のバンダナ、もう一人は黄のバンダナを身に着けていた。
「くっそ、『ファイアレスストーム』」
奴は台風を巻き起こした。俺は動けないまま、それを見ていた。またもや、人間を超えた能力を発動する奴。しかし、それを見て、後から来たあの二人は驚くこともせず、ちょっとした苦笑いを浮かべただけだった。
「雑魚ですね、行きますよ、緑坂!」
「了解!」
すると黄色のバンダナが叫んだ。
『サンダー・カーテン!』
台風の目に一直線で下された黄色の光。サンダーということは……。
「あぶないっ!」
「!?」
俺は怖くて目を閉じた。すると。
『−−っ!』
ーー黄色のバンダナが唸る。
俺は腕の中にしっかりとあの『不良』を抱きしめ、そして体中にしびれる雷を受けていた。
「お前……!」
驚いている彼の声を聞いて俺は目を閉じた。生徒に……あんな攻撃、喰らわせられない。
「ん、どうし……」
もう一人の男、緑坂が近づく。そして彼も一瞬にしてその場の状況を理解したらしい。
「う、そ……すごい、この人」
黄山のサンダー喰らって生きてる、この人……。
「まぁいい」
黄山が声をかけた。
「連れて帰ろう。この男はお前が直して……記憶もなくして戻してやってくれ」
すぐに気を失っている違法能力者を抱きかかえて帰ろうとする『黄山』。
「ねぇ、黄山君。この人ーー」
「知らない。すごいとは思うけど」
そういうと黄山は消えた。緑坂は倒れているその男に近づいた。傷は二つ。足と、左腕。
「あ……」
緑坂が治癒能力で彼を直しているとその男が右目から涙を流すのが見えた。
「優しい、人なんだね……」
なんだか、記憶を消すのが嫌になりそうだ。うん、でも俺たちのルール上は消さなくちゃいけないしな……。
「ごめんなさい」
緑坂が彼に手をかざす。一つ彼が呪文を唱えると彼は安らかな顔つきになった。
「任務完了」
そう言い残すと緑坂も黄山のいる家へと帰って行ったーー。
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