No.11
「伊藤、君」
人ごみを分けて僕に向かってくる青木君。少し大きめのボックスを入れた袋を抱えている。ちなみに僕のはけっこうコンパクトな贈り物だから小さくて済むんだけどね。
「ねぇ、コーヒーでも飲まない?」
僕がそう提案すると彼もうなずいた。
「ゆっくりしたいし、そうだね、一階にあるカフェにしようか?」
青木君が僕の車いすを押す。なんだか、もう、彼から離れられない。優しすぎて、たぶん、大好きっていう気持ちもあって。
「えっと、僕はブラックで大丈夫だけど、伊藤君は?」
「僕は甘いのがいいなぁ、カプチーノで」
カフェについて、二人で好きなものを注文。ブラックでOKとかすごくかっこいい。数分たって二人のもとに注文品が届く。クラッシックの流れる店内はその雰囲気を楽しむたくさんのカップルでいっぱいだった。
「で、何買ったの、王子様」
青木君がきく。
「これ、だよ」
そう言って青木君に差し出すソレ。
「……開けてもいい?」
「もちろん」
彼が一瞬戸惑ったのはリボンの色とか包装紙が女の子用だったからであって。
そんな彼の戸惑う姿が「可愛い」なんて思ったのは僕だけの宝物。というより、お姉さんの勘違いがこれを生んでしまったわけでもあるけれど。今だけはちょっぴり感謝している。
「うわぁ」
青木の手には僕の選んだ靴下。ワンポイントで描かれているのは青木君のイニシャル。もちろん自分用はIって入ってるやつなんだけど。……それをデザイン変えて二つずつ。なかなかいいんじゃないかなって思う。
「ありがと」
すぐにイニシャルの意味がわかったらしい青木はうれしそうにギュッとその靴下を引き寄せると丁寧に袋の中へとしまった。
「じゃ、次は僕だね」
そういうと彼がボックスを僕に渡した。
「一目ぼれだから、文句言わないでね」
そう言って渡された箱。
「んっと……あっ」
ブーツ、かな。何ともオサレな奴だ。僕の靴下がプレゼント負けしたように思えて少し残念だったけど、このブーツ、なかなかカッコいいデザイン。シンプルなんだけど、飾りの部分が目立たない程度にも主張している……彼らしいというか。
「どう? 気に入った?」
答えをあせらせる青木。
「うん、カッコいいよ」
……そうとしか思えないし。さらにそう付け加えると彼はさらに喜んだような笑顔を見せた。
そのあとはフードコートでお食事をして、他の店に入ってみたり、休憩場所で漫画の話とか、テレビの話をした。夜になるまで話が尽きることはなかった。
「そろそろ、帰る?」
僕がそういうと彼は残念そうにうなずいた。
「そうだね、行こっか」
僕の足になってくれるって言ったときからなんだか駆け足で時が過ぎていったように思う。あの日も、この日も、君といるから輝いているんだって、今振り返ってそう思える。
「ねぇ、青木君」
僕は言った。
「たぶん、僕の人生の中で一番に楽しいクリスマスだったよ」
「へぇ……」
あいまいな彼の返事に僕は反応した。
「まだ、遊びたかった、とか?」
冗談めかして言うと彼はちょっと真剣な口調で言った。
「君にもう一つ黙ってたことがあって……ね?」
そんな思わせぶりなこと言うから。
「聞かせて、青木君」
「うーん、そうだな、……実は僕は不登校で学校出席日数が足りてなくて一年浪人組っていうことで、つまりは一歳年上だったってこととか?」
「は、ハイ?」
早口すぎてついていけないし、内容聞きとっていても聞き取りたくなかったような言葉が入っていたような。
「もう一度言うね。実は僕は不登校が過ぎて出席日数足りなくて一年浪人組。そういうわけで貴方より一歳年上です、OK?」
……ドラマのセリフか、って違う。それって。
「一年お兄さんっつーか、先輩!」
「どーも」
どーもじゃないってば青木君、いや青木先輩!
「これからもよろしくね!」
あー、何だこれ。先輩にずっと君付けしてた僕ってあぁあああ。
「失礼シマウマ……噛んだ、失礼しました先輩」
混乱している僕を見て楽しげな先輩。
「先輩とかなし。いつでもいつまでも一緒、でしょ?」
「は、はい。じゃぁ、敬語なしでいきます」
「完璧敬語なんだけど、王子様」
「あぃ……ってもう、青木君がそういう大事なこと今言うから……」
あーあ、なんかすごいことになってきたよ、僕。
「よろしくね、また、明日からも」
そう言って家まで送ってくれた青木君。そういう大事なこと、よくほおっておけたよね……うん、本当に危険人物認定だな。
「うふふ、伊藤君、かわいー」
朝から夜まで今日はずっと一緒だった。もう、僕のツボおさえまくるんだから……最後に大切なこと、言いたくなっちゃった。
「絶対誰にもふれさせてあーげない」
だって僕の王子様だし。指一本許しはしない。
「メリークリスマス」
今日はたぶん初めてのデートにして最高の日。
ありがとう、キリストさん。信仰者じゃないけれど、少しだけ今日という特別な日に青木は感謝していた。
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