No.9
「こっちこっちー」
奥のほうで手を振っているのはもうすでに集合場所で待っていた青木君だった。今日は黒いコートじゃなくて緑色のコートに青いズボン。マフラーは茶色地に黄色のラインが入っているオシャレなものだ。
「僕ももうちょっと飾ってくれば良かったかなぁ……」
そんな風に思っていると青木がこっちへ歩いてきた。
「うわぁ、伊藤君もおしゃれなコーディネートするんだね、デザイナーさんみたい」
そ、そう見えたんだ……彼の素直な感想に違う意味で僕は恥ずかしくなった。
「あー、これ有名ブランドじゃない?」
そう言って僕のマフラーを見る青木。今日の朝宅配便で届いたものだ。
「うん、これくらいイイやつつけてみよっかなぁー、なんて」
そんなことを言っていると青木君が笑った。
「だからだね、タグが付いてるの」
そういって小さな紙くずを僕に見せる彼。
「あぁあああああ」
顔の赤い僕に向かって彼は楽しそうに言う。
「じゃ、そろそろデパート行く?」
顔を両手でふさいだ僕が指の隙間から目でOKの合図を出すと彼は「ふふっ」と変わらぬ笑顔で僕の車いすをゆっくりと動かし始めたーー。
「久しぶりだわー、ここにくるの」
デパートに入ったのは久しぶりだった。近所のスーパーはよく行くのだけど、大きい店は本当に久しぶりで。しかも僕をエスコートされている身だから、なんだか本当に王子様気分だったりして。
「どうする? っていうか、王子様は何がしたい?」
青木君の問いに「どうしたい?」と上目づかいで彼に答えを求める僕。
「僕はそうだなぁ、、、クリスマスだし、プレゼント探しでもしたいかな」
そう言ってほほ笑む。あぁ、なんて幸せな時間なんだ……。
「よし、じゃ、こうしよう? お互いのクリスマスプレゼントを一時間以内に買ってくるの。予算はそうだね……高くても3,000くらいかな」
僕が提案すると彼は少し戸惑ったような顔を見せたけどすぐに了承してくれた。
「うん、そうしよっか」
僕と彼はすぐに見えなくなった。クリスマス商戦で店内が込み合う中、僕もその波にまぎれながら急いである場所を目指した。
「ん、ここだ」
あらかじめ用意しておいたメモと一致する店名を見つけた。じゃ、僕はここでゆっくりとモノを選んで、青木君の帰りを待つとしましょう……。
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