No.7
公園のイルミネーションは意味もなく光っていた。
白、赤、青。雪のように降り積もっては優しく崩れ落ちていくような……そんな眺めを見事に再現している。
「流れ星って普通の星とはちがうんだよ」
青木は言った。
「空はいつでも星とともにあってーー昼間だって太陽さえなければ光っているものなんだけどね、流れ星は一回きり。しかも、夜にしか星は見えないからね、それが見られることには特別なチャンスがあって」
……待て、こいつ、星空の話を続ける気なんじゃ。
「ふふっ。つまらない? こういう話」
「え、そんなことないよ。僕も星を眺めるのは好きだし。昔星空を見るためにわざわざここまで来たこともあって。都会じゃ見られないから」
「そう。あまりに明るい世界にいると、わからないこともあるんだよね。僕が今どこに住んでいるのか、とか、誰が僕を動かしているのか、だとか」
「青木君は哲学者なの? それとも、科学関係に進みたいとか?」
「どっちでもいいかな。あ、そういや、昔話するんだったっけ」
そっと流れ落ちた水たまりを見ながら青木が自嘲気味に微笑む。
「青木、君?」
「ねぇ、しゃべったら、ご褒美頂戴ね、王子様」
僕の冷たい手にそっと重ねられた彼の少し大きい掌。彼は僕を見ないで静かに話し始めたーー。
「ねぇ、どうして!? どうして、別れるの?」
「仕方ないの。もう、このまま一緒にいたら、私……」
「僕は大丈夫だよ、お母さんたちも気づいてない。先生にだって僕」
僕は、僕だけは、奏姉ちゃんをなくしたくない。どんな姿の君であっても、そばにいてほしい。
「だめ!だめなの、これは。あなたが部屋で泣いているのは、結局私の両足のせいなのよ」
「ちが「そんなの、許せない。私、優太のことが一番に……一番、だから」
そんなの、嫌なんだ。姉貴と一緒にいたいから、一緒にいられるから、どんなひどい仕打ちにだって耐えてきたんだ。どんなに弱い僕だって、貴方なら喜んで認めてくれる。家族だから、僕を守ってくれたヒーローなのだから……。
「お母さん! 引っ越さないで、一緒に暮らしたいの。お姉ちゃんのわがままはきいて、僕のわがままは聞いてくれないの?」
「優太、そんなんじゃないのよ。ちゃんと、いじめも止まったでしょう?」
「違う。いじめなんてそんなの」
「優太! いじめは犯罪なのよ。どうして貴方が哀しい思いをしなくちゃいけないの? そんな理由どこにもないわ。私の大切な息子なの。いじめなんて許さない。貴方が認めないのがだめなのよ」
……僕は、駄目な子?
「お姉ちゃんが守ったのはそんな嘘をつく子なの? 違うでしょう?」
……僕は、守られただけ?
「パパのそばでしっかり成長しなさい。それまでは来ちゃだめ」
……来ちゃ、駄目。
『さよなら』
その言葉はあまりにも重すぎる。僕が耐えてきたものは一体何だったんだ? 僕が作り上げてきた姉貴との思い出はあの事故の日のまま止まってしまったの?
オルゴールの音を聞きたくなった。
あの、儚い夢の時間は、まわし続けなければ消えてしまう物語。
「お姉ちゃん……もう学校なんて、行かなくていいよね?」
パパは、それについて何も言わなかった。そうするなら、そうしろと黙認していた。
「わがままな悪い子だよ、僕は」
中学に入ることになって一年半が過ぎた。入学式に出たっきり僕はその制服に腕を通すことはなかった。
ふとした瞬間に、『君』を見つけるまでは。
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