No.6
「来た、来てくれた」
その青木の声は、彼が僕に向けたものであるというのに、なぜか彼自身にも言い聞かせているような、そんな響きだった。
「寒く、ない?」
昼間の事件などなかったかのように僕の足を動かしてくれる青木君。
「熱い、よ。とっても」
皮肉をこめて言ったつもりだった。僕の両腕がパンパンなこと、この人は忘れてしまったのだろうか。
「そう? 残念」
……残念? いや、やっぱりこの人普通じゃない。
少しぼーっとしてると青木君の顔が真ん前にドアップで映っていた。
「ひぇっ……ん!?」
よくわからないけど。なんだか、よくわからないんだけど。青木の顔が、見えない。いや、そんなに近付かれたって僕の網膜に映りきらない。
「王子様、僕が抱っこしても構わない?」
耳元に、青木の唇。執事か、こいつはいつから僕の執事に……。
「あ、おき、さ、さっきの……」
「ふふっ、伊藤君、もうちょっと僕のこと対等に思ってくれてもいいのに」
その挑発的な笑みは一体何なのだろうか……。
答えがイエスであろうとノーであろうと、ベンチに腰を下ろすことになっていた僕。
「平田になんか言われたでしょ?」
彼から話し始めた。
「でもね、すべて話すから、誤解しないで。僕の話、聞いて」
ーードキン。
なんなんだ、この心臓の音。きっとこれからの話に僕の心臓が反応しているんだ。
「僕のお姉ちゃん、流れ星になっちゃったんだ」
もう一度、優太は繰り返す。
「世界で一番きれいな流れ星にーー」
そういう彼の瞳からも一筋の涙が流れ落ちていた。
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