No.2
今日の日記:青木君は僕が「授業はでなきゃ、点数とれてもね」っていうと素直に従った。
なんでだろう、僕、この人、どこかで会ったことでもあったっけな。いや、まずこんな田舎と東京にいた僕が出会うなんてそんな確率……。
「ねぇ、どうして王子様っていうの?」
僕は前から気になっていたことを尋ねてみた。二人になると必ず彼は僕のことを「王子」と呼ぶのだ。呼び方はなんでもいいんだけど、なんだか僕まで照れてしまうし……。
「ふふっ」
不意に彼は笑う。
「君の不思議そうなその顔が見たくて。僕ね、昔はお姉ちゃんがいたんだけど、ちょっと遠くへ出かけちゃって」
暗い帰り道。二人を照らすのは、まばらに並べられている街灯だけだ。
「お姉さん思いなんだね、青木君」
僕がそういうと彼は一瞬だけぽかんとした。その時の顔はマジでレアだったような気がする。何も見えない夜空にチカリと白い星が光って消えた。
「そうだね。否定はしないさ」
彼が僕の足になって半年以上。カレンダーはついに11月をめくり終えた。
「あのさ……」
「ん?」
珍しく青木君がしゃべりかけてきた。
「大切な人っている?」
「え? 僕に?」
驚いてそう返すと彼は静かにゆっくりとうなづいた。
「そう、君が思う大切な人」
「うーん」
返答に困っている僕を見て彼は少しだけ目を細めた。そしてすぐにいつもの表情に戻るとこう続けたのだった。
「あのね、僕、君の邪魔にならないなら一日だけ君と一緒に休日を過ごしたいの。できるかな?」
そうか……そんなことか、と思って僕が手帳を取り出そうとすると彼はその手を止めた。
「わかってるよね、開ける日」
「え?」
「クリスマス、だからね」
一瞬なんのことかさっぱり……ってえっ!
「大切な人との約束を一番にね」
鉛筆を僕の手に握らせると彼はコホン、と咳払い。
「うん、そうだね」
僕は笑った。彼のように、やわらかく。
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