No.1
「おーい、伊藤くーん」
放課後の教室。隣のクラスから一番に僕のところへ駆けつけてくれるのは一人だけ。そう、僕の親友「青木君」だ。
「ありがと。もう準備できたから」
そういって鞄を見せる。すると、彼はやわらかい笑みを浮かべて僕を見た。
「じゃあ、帰ろっか、王子様」
「……うん」
今日もそうして僕は帰路につくーーー。
彼に出会ったのはちょうど半年前。この学校にはじめて引っ越してきた時のことだった。でも、その時の彼と言えば、いわゆる「サボリ」のうちの一人だった。まじめに授業に出席しているところなんて見たこともなかった。
……初めのころは転校生のぼくに珍しがって、たくさんの人たちが寄ってきたのだけれど、すぐにそういうこともなくなった。一人で登校し、一人で帰宅していたある日、彼は突然、その姿を現した。
「ねぇ、君。それさ、僕が、手伝ってもいい?」
彼は僕の足を指さしてこう言った。一瞬戸惑って何も言えないでいると彼はふにゃ、とする笑顔で言葉を続けた。
「ごめんね、僕、隣のクラスの青木っていうんだけど」
そう言いながら僕の車いすに触れた。
「えっと、青木さん、一体……」
「あのね、伊藤君」
僕の返事も聞かずに車いすを押し始める彼は僕の耳元で恥ずかしそうにこうつぶやいた。
「僕、君の足の代わりになりたいんだ」
僕が上を見上げれば彼は頬を赤らめてギュッとマフラーを締め直していた。案外、照れ屋さんなのかも。
「じゃあ、お願いしよっかな、青木さん」
そういうと彼は小さくつぶやいた。
「青木君って言ってほしかったなぁ……」
僕が聞こえないふりをしてわざとせき込むとその意味を理解したのか青木もかすかに微笑んでいた。
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