小さくたって大丈夫?


この学院では色々と不思議な事が起こる。それは妖精が住んでいるからで、彼らがさまざまに影響を与えているからだと。
その中で最も有名なのが『ヴァイオリンロマンス』ヴァイオリンが恋する二人を結びつけた、という話。
以前ニアが『壮大なおとぎ話』と言っていたけれど、それが実際にあった奇蹟だと私は知っている、その奇蹟を助けてくれたのが妖精だという事も。分かっていますよ、妖精さん。

「一体何が起こったの〜」

星奏の理事長と話し合いがあるからと学院にやって来た冥加さんと、正門の妖精像の前で待ち合わせ。ウキウキと待っていて、ようやく現れた冥加さん。妖精像の話になって、冥加さんが「なんて非現実的だ」と言ったとたん、辺りが光に包まれた。まぶしくて思わず目を瞑ってしまう。閉じた瞼にも感じる強烈な光が収まって、目を開けてみると冥加さんがいない。

「冥加さん、どこに行ったんですか?冥加さーん!」

さっきまで目の前に居たのに一瞬で見失うなんて・・・辺りを見回してみても人影もネコの姿すらない。もしかして帰ってしまった?

「ここに居る・・・騒ぐな、少し落ち着け小日向」

慌てる私の耳に届いた小さな声。冥加さんの声だ、でもどうして下の方からこんな小さな声で・・・

「みょ、冥加さん?どうしてそんな小さくなってるの?一体何が起こったの〜」
「俺に分かる訳がなかろうが、いいから落ち着け」

見下ろした足元にいたのは手の平サイズで腕を組んでいる冥加さんの姿。思わず目を擦ってみたけれど、見間違いではなかった。

「落ち着けって、どうしてそんなに冷静なんですか冥加さん。どうしてこんな事になって・・・え、もしかして妖精の仕業なの?」
「貴様は何故そんな非現実的な結論に・・・いや、この事態がすでに現実的ではないな」

ため息をつく冥加さんの前に膝を付く。それに気付いた冥加さんが私の手に寄って来た。

「ここでは誰に見られるか分からん。あまり人が来ない場所に移動しろ」

そっと冥加さんを持ち上げる、暖かいな。手の平に乗せようとしたら、

「手が汚れるだろうが」

と怒られた。じゃあどうしよう、そうだ。

「おい、何をする」
「これが一番落ち着くんじゃないかな、と」

左肩に座らせてみる。うん、良い感じ。

「止めろ!貴様の左肩にはヴァイオリンだろうが、痛めたらどうする気だ!」
「冥加さん、ヴァイオリンの方が重いですよ、間違いなく」
「・・・・・」


森の広場の木立に囲まれた小さな茂み、お気に入りの場所に辿り着く。結局右肩に座らせてきた冥加さんは、制服姿も手伝ってかお人形さんみたいでとても可愛い。

「何を笑っている?」
「冥加さんが可愛いって、いえ、なんでもないです」

ため息をついて眉間の皺を深くした冥加さんが腕時計を見た、そのままポケット?から携帯を取り出す。うわ、凄くちっちゃい。

「チッ、圏外か」

舌打ちする冥加さん。私も携帯を取り出す、私のは圏外じゃない。小さくなって電波が届かないのかな?

「連絡をせねばならん、携帯を貸せ」

芝生の上に冥加さんを下ろし携帯を差し出す。番号を押し終わったのを見て、通話口を冥加さんの口元に合わせる。

「天音学園理事の冥加です、松本先生をお願いします」

お仕事モードの声がカッコいいなと微笑んでいると、冥加さんが私を見た。なんだか嬉しそう。

「先生、先日はお招きありがとうございました」

聞き耳を立ててはいけないよね、と会話から意識を反らす。涼しくなってきたな、もうすぐ秋だ、なんて考えていると手を突かれる感触。電話を終えた冥加さんが私を見上げている。

「あと二件だ」
「はい、どうぞ」

と答えて携帯の文字列を冥加さんの手の位置に合わせる。あ、ちょっと笑った、やっぱり嬉しそう。


天音の理事さん二人と会話して、連絡は終了。

「今日はとりあえずこれでいい。しかし携帯すら満足に使えないとはな」
「全然困ってるようには見えないですよ冥加さん・・・小さいままでも大丈夫なんじゃないですか」
「馬鹿を言え!これでは何もできんわ!」

また怒られた。そうかな、そんなに落ち着きはらってるのに、全然慌ててもいないのに。

「まずは原因か、一体なんなんだ?」
「やっぱり妖精さんじゃないですか、さっきの冥加さんの発言に怒ったとか」
「非現実的のどこが悪い、普通の見解だろうが」
「存在を否定されるのは、悪口より酷いんじゃないかって思うんですけど」

そう言うと沈黙する冥加さん。妖精さんの気持ちか分かったのかな?

「小日向、その妖精とやらについて貴様が知っている事を言え」

私が知っている事というと、えっとですね。

「ヴァイオリンロマンスと、良い演奏をすると空から楽譜が降ってくるとか、勝手に伴奏してくれるとか」
「なんだそれは、脈絡が無さ過ぎる。貴様、自分の学校の事だろうが」
「だって私転校してきたばっかりなんですよ、噂くらいしか知らないです」
「・・・分かった、誰でも良い、詳しいヤツに連絡して話を聞け」

詳しいのって誰かな、律君、それともニア?考えながら私は携帯に手を伸ばした。




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始めての冥かな作品です、つたない文章で失礼しました。
主催して下さった神崎様、そして最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました。


ひねみと




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