ああはいはい、全部なかったことにね


何人かの女子が円になって、何かを囲んでいた。


「なんで!?普通謝ったら許すのが筋ってもんでしょ!!?」


囲まれていたのは乙女子。

何故だかわからないけど急に転校してから自分を「神様に選ばれた」とか意味のわからない電波発言とか、彼氏を取っておいて「浮気される方が悪い」という発言をするため、皆に嫌われてた。

・・・いや、現在進行形で嫌われてる。

「なんで!?私謝ったでしょ!?なんで許さないの!!?
私だって生きてるんだよ!?いじめなんてされたら傷付くんだよ!!?」

「いじめされるような事をやった貴女が悪いんでしょ?前も反省してるなんて言ってたけど、すぐにまた同じ事し始めたじゃない」

乙女子の目の前にいる女子が喋る。
事実、乙女子は前述した事以外にも、色々と酷い事をしていて乙女子への無視等のいじめなんて、
乙女子が傷付けた人達の痛みに比べれば、とても敵わないくらい。

この前はあの生徒会長に正面から「あんた人吉くん達に手を出さないで」なんて訳のわからない事を言って、あきれさせられた。

その前は・・・と数えればキリがない。



「なんで・・・なんでよおぉぉ・・・私、逆ハー主なのに・・・」

女子達が出ていった教室で、乙女子は涙をぽろぽろ溢して泣いていた。顔を歪ませながら。

私はその顔を見ながら、普段乙女子が男子に向けるかわいこぶりっこな顔より、この顔の方が内面が出てるな、なんて片手で携帯を弄りながら考えていた。



「あんた・・・」

「ん?私?」

まぁ、今教室に私たち以外居ないから私なんだろう。


「見てるなら止めてよ!私こんなに辛いのに!!」

「え?あはは、無理無理。割って入るの怖いもん」

笑顔で乙女子に顔を向けながら携帯に来たメールに返信を打ちながら答える。


「あんた見たいにいじめを傍観してるやつが一番悪いでしょ!?」

「あは、いじめられる原因が自分の悪意のある行動な奴には言われたくないなぁ。」


乙女子から携帯の画面へ視線を戻すと、頭の中で乙女子が今しているであろう顔が思い浮かんだ。
顔をあげると思った通りの自分が正しいのにという私への批判まじりと、怒りが混じった目で私を見つめていた。


「ねぇ、毎回あなた自分の事悪くないって思ってるでしょ。そう思いながら皆に酷い事してるでしょ。皆も今自分達の事悪いと思ってないよ。
何にも難しくなんかない。今まであなたがした事のツケが回ってきてるだけなんだよ。
やっぱり神様は凄いよね。悪い事した分あんたもっと酷い目に会うよ。因果応報自業自得。誰を恨んでもお門違い。だって元凶はあなただもん。」


「だって、でもご、ごめんな「ごめんなさいって言ったのに許してくれないのは酷い?」う゛っ・・・」

乙女子が紡ごうとした言葉を、私が続けて言う。
図星だったらしく、また目に涙を浮かべながら黙った。

「ごめんなさい?あのあとも酷い事したのにごめんなさい?
ねぇ、仏の顔も三度までって言葉知らないの?」


乙女子は口をパクパクさせてたけど、全然言葉は出て来てなかった。だから、多分言いたい事はまた自分に都合の良い言葉で、でも私がいじめっ子グループに言いつけるのが怖かったんだな、と思った。


ティロリロリン♪


場違いな音が、私の持っている携帯から流れ出した。
携帯を開くと、『早く来いよ』といったちょっとぶっきらぼうなメッセージ。男ってなんで恋人にも冷たく見えるメールを出すんだろ。あいつだけか?だとしたらあいつツンデレやな。

椅子を引いて、廊下に出る。
「待ってよ!」


・・・いや、出ようとしたら呼び止められた。

「あのね、あなたなんで皆に嫌われてるのかまだわからないの?わかるわけないか。脳内お花畑だからね。
・・・それと、あんたみたいな性格悪いのが誰にも何も言われずに上手くやれると信じてたの?ねぇ、本当に?良くできた漫画じゃないんだよ?」


そう言って教室から出る。後ろから、わぁっ!と泣き声が聞こえたけどどうでも良い。多分彼女はこれからも同じ事を繰り返して転落した人生を歩む。

転生なんだか逆ハーなんだか知らないけど、好き勝手やって許してくれる程漫画もアニメも小説もおとぎ話も優しくない。

どんな物語でも悪役は主人公に倒されるんだから。
皆悪い事は全部背負って生きて行くんだから、絶対に全部無かった事になんて出来ない。


『ごめん、用事が出来て遅くなっちゃってた!今すぐ向かうからちょっと待っててね!
私、今日のデート楽しみにしてるから!』


私は校舎を歩きながら、人吉くんに返信をした。






fin.







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